あなたは私の羽。あなたを失ったら私はもう飛べないの。


病院だとかそんなこと気にもとめないで階段を駆け上がった。エレベーターなんかより私の足の方が早い。一般病棟から隔離された大きめの一人部屋。私の目的地はそこ。


「す、スクアーロ…!」


勢いよく扉を横に開ける。一つだけあるベッド。シーツが上まで敷かれてるけどベッドサイドから銀髪が垂れている。
シーツを盛大に捲り上げる。
寝てる、の?


「……は、あ…生きてる…」


一気に五階まで駆け上がったせいで疲労した足がついにへたり込んだ。反対側を向いているスクアーロの頭に白い包帯を見た。ベッドに広がる髪はもう病院の臭いがして、落ち着かせようとゆっくり息をする度にその臭いが鼻腔を支配した。


「よかった…よかった、」
「ゔお゙ぉい、泣くなぁ」
「! スク、あ…スクアーロ…!」


優しく私の涙を袖で拭こうとするスクアーロの手を払いのける。


「なまえ…?」
「…んな」
「な、」
「触んな!カス!!」
「……ゔお゙ぉい」
「散々心配かけて、私がどんな気持ちで、」
「…………」
「う、ぁあん、ひっう、う…」


あなたがこの世からいなくなったらどうしよう。そんな嫌な予感の中見送ったから、悪い夢を見てしまったのかと思った。私が到底及ばないくらい強いあなたの背中をもう見れないかと思ったの。冷たくなったあなたの頬を撫でる日が、いつかくると覚悟していたけれど、こんなにも早いのかと、現実を受け入れられなかった。今、確かにあなたは温かい。


「ふっう、ひく、」
「ゔお゙ぉい、もう泣くなぁ」
「う、うぅ…」
「なまえ、頼むから。泣かないでくれぇ」
「っ、スクアーロ…」


スクアーロが私の頬を包み込んでおでことおでこをくっつけた。生きてる、そう思ったらやっぱり涙が出てきてしばらく止まりそうになかった。


「スクアーロ、スクアーロ…」
「ん?」
「スクアーロはね、私にとってどうしようもない存在なの。スクアーロにとってのボスみたいな、そういう人なの」


あなたのために私は生きたい。あなたの力になれるなら命を惜しんではいられない。どうしてそう思えるのか、そんなことはわからないけれど私はあなたに心底惚れ込んでる。


「スクアーロが死んだら、私はどうなるかわからない」
「でもオレはお前より先に死ぬぞぉ?」
「うん」
「覚悟、しとけよぉ」
「うん…」
「ザンザスがオレより先に死んだ時、オレもどうなるかわかんねぇ。そん時はなまえが支えてくれよぉ」
「ん、」
「オレが死んだとき、お前を支えてくれるやつも必ずいるからなぁ。大丈夫だぁ、そいつと出会うまでは生きててやるからなぁ」
「スクアーロ、」
「あぁ」


涙でぐちゃぐちゃの顔にスクアーロがキスを落とす。瞼に落ちたら次が唇の合図。あたたかいあなたの唇にやっぱり涙が出て少ししょっぱいキスになった。

あなたは私の翼、あなたがいなければきっと飛べない。
だけど、



翼がなくても私は進む
空は飛べなくてもこの道は続くの



「スクアーロ長生きしてね、あんめり無茶しないで」
「…おぉ」
「とりあえず治ったら一発殴らせて」
「な、」
「ん?」
「はい」
「よろしい」



130803




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