タイムリミットが、近いかもしれない。

あと5分。あと5分だけ待って、あなたが来てくれたらあなたのことを信じてあげる。あなたの嘘を信じてあげる。



「スクアーロさん、スクアーロさん!起きてください、お昼出来ましたよ。」
「ん、…あぁ、分かった。」
「もう、まだお昼なのにそんなに眠いんですか?昨日お仕事遅かったんですか?」
「おう、基本夜に動くからなぁ。」
「…もしかしてホスト、ですか。」
「んなわけねぇだろぉ!オレがお前以外の女にへらへらするわけねぇだろ!」
「私にもあんまりへらへらしませんよね。」
「…してほしいのかぁ。」
「そりゃあもう。」
「…………」
「……ぶっ!」
「お前、お前が、してほしいって言ったんだろぉがあ!わら、笑うんじゃねぇ!」
「スクアーロさん、かわ、かわいいです!写メ、写メ撮りたいからもう一回!」
「ふざけんな!てめ、」
「てめぇとかお前じゃないでしょ。スクアーロさんの彼女の名前は?」
「…なまえ。」


うれしそうな顔でへらっと笑って、オレが顔を近づけると少しだけ頬を赤くして目を瞑った。




タイムリミットが、近づいている。なまえとの待ち合わせまであと5分。車を飛ばせば間に合うだろうか。任務が思いのほか長引いた。夜勤が多くて緊急召集が多い仕事だと誤魔化して付き合ってきた。なまえは笑顔で傍に居てくれた。だから今日の約束は死んでも守らなきゃいけねぇ。


「美味しかったですか?」
「おう。上達したなぁ。」
「スクアーロさんの厳しい指導のおかげですね。」
「そうだなぁ。」
「スクアーロさん、好きです。」
「オレもだぁ。」
「できればずっと一緒にいたいです。」
「どうしたぁ急に。柄でもねぇこと言い出して。」
「スクアーロさん、なんのお仕事してるんですか?」
「…ホスト。」
「本当ですか?」
「…………」
「私、今週の土曜日仕事が早く終わるんです。久しぶりにどっかでご飯食べませんか?」
「おう。土曜日なら8時には仕事が終わるはずだぁ。」
「じゃあ8時半には会えますか?」
「いつもの公園だろぉ?大丈夫だぁ。」
「…今回はあんまり待ってあげませんよ?」
「わかった、待たせねぇよ。」
「約束ですよ。」
「あぁ。」


あなたはいつも30分は遅れてきた。だから本当はもっと待てるんです。最後と決めた今日だから1時間でも2時間でも、ずっとここで立っていられます。でも最後と決めた今日だから5分しか待ってあげません。
連絡が来ないことも分かっています。ホストではないことも分かっています。だけどそれでも私のところに来てくれたら、私はあなたの嘘を信じます。ホストだと、嘘をついたあなたを愛します。

時計の針がまた一つ動く。あと一つ動いたら私はあなたに背を向ける。きっと振り返らない。だから早く迎えにきて。


駐車場に適当に車を止めた。ひと通りのない公園の駐車場だから別にいいだろぉ。早く行かなきゃならねぇんだぁ。

なまえの姿が見えた。思わず足を止めて少し離れたところからなまえを見た。あと1分だ。時計を見つめるなまえはきっとオレの嘘に知らないふりをする。オレはそれでいいんだろうか。いま知らないふりをしてくれたなまえにはたしていつまでその嘘を背負わせるつもりなんだろう。



分かってる、電話もメールも来ないことは。それでもわずかに期待して携帯を見た。液晶には8時35分の表示。
そう、もうタイムリミットなのね。あなたがいつも走ってくる方向を一度見た。さよならを言おうと思ったけどやめた。
スクアーロさん、


「好きでした、ありがとう。」


深くお辞儀をしてゆっくり顔をあげる。まだあなたは来ていない。バカ、もう帰っちゃうのよ。待ってあげないって言ったでしょ。もうきっと会わないわ、大好きなあなた。


「っ、あ…あぁ、う…」
「どうしたぁ、泣くなぁ。」
「………え、?」
「悪いなぁ、10分もまたせちまって。」
「いや、え、スクアーロさん、あの、その…くさいです。」
「あぁ、血の匂いだろぉ。オレのじゃねぇぞ、返り血だぁ。」


嘘をつくのはやめたんだ。だからなまえが背中を向けてから声をかけた。


「…教えてくれるんですか?」
「おう。」
「スクアーロさん、なんの仕事、してるんですか?」
「…暗殺者。」
「人を殺してるんですか?」
「あぁ。」
「それは…怖いですね。」
「怖がってるようには見えねぇなぁ。」
「だって優しいスクアーロさんしか知らないから。」
「…………」
「スクアーロさん、私のこと好きですか?」
「当たり前だぁ。」
「私も好きです。付き合ってください。暗殺者のスクアーロさん。」


キスする前の笑顔で優しく言ったその言葉が耳に響いた。嘘を呑み込んでくれて、もう一度愛するチャンスをくれて、なんて言ったらいいかわからない。

細い腕を引っ張って抱き寄せた。微笑むなまえの髪を撫でて、唇を押し当てた。なまえほ泣いてないはずなのに少し塩の味がした。






もう一度、二人で恋を始めよう









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