ガコン、とバスケットボールがリングから落ちる。審判が二点というジェスチャーをした。私の放ったシュートが入るとは誰も予想していなかったらしく、端からカウンター狙いだった相手チームは少しがっかりしたようにコート外へでる。すぐにパスが通ってゲームが再開する。相手チームのボールをチームメイトの誰かがカットしたところでハーフタイムを告げるホイッスルが鳴る。
やっと交代。日頃の運動不足のせいで、息切れが、もうだめ。


「お疲れなまえ」
「お、お疲れ…」
「大丈夫?疲れすぎじゃない?」
「うるさい、運動不足+運動音痴舐めんな…」


ちょっと水飲んでくる、と言いおきして体育館の外にでる。体育の授業は嫌いだが、走りつづけていなければいけないバスケはその中でも特に嫌いだった。自分が試合でなければ、友人とおしゃべりしていられるのはありがたかったが。
どうにか呼吸を整えながら水飲み場まで歩くと、頭から水をかぶるバカがいた。うわぁ最悪。短くはねた銀髪が水に濡れている。かわいそうにこの暑い中、男子は外でソフトボールである。


「うおぉい!なまえじゃねぇかぁ!何してんだぁ?」
「スクアーロ…何って水飲みきたに決まってるでしょ」
「女子はバスケかぁ」
「そうよ」


タオルを使って汗を拭う。蛇口を捻って水を出す。スクアーロのように水をかぶるまでは出来ないが顔くらい洗ってもいいだろう。バシャバシャと水を顔にぶつけると、少しの風のおかげで涼しさを感じた。
スクアーロはぶるぶると頭を降って水を吹き飛ばす。なんなの犬なのこいつ。てか水跳ねてるんですけど、私に!!


「あんったね、どんだけ野性的なの!?」
「うるせぇこれが一番なんだぁ」
「どこの野良犬だよ…」
「鮫だぞぉ」
「はいはい」


スクアーロが飛ばしてきた水を拭いて、蛇口をもう一度捻る。溢れる水に口をつけて一口飲み込む。もう一口、と口を開けた途端、私の腹に細い腕が回る。その腕はもちろんスクアーロなんだけど、何を突然こんなことしてきたのかわからないし、そもそもこういうのってさぁ!?戸惑うんですよ!?思わず鼻から水吸ったよ!プールかよ!!ふざけんな!


「ひっ、ん、げほっごっほ…」
「うぉい、きたねぇなぁ」
「死ね、まずしんぱっしろ、クッソ」
「大丈夫かぁ?」
「んなわけあるか、死ね」


こういうときどうしたらいいのかわからず、とりあえず苦しんでいる私の背中をスクアーロがさする。心配そうな顔してるけど、あんたのせいだし、最初汚いっていったよね!?
私が落ち着いたのを見計らうと私の腹周りにまた腕を回して、自分の方に引き寄せた。そのまま階段の影に滑り込んで壁に寄りかかる。壁づたいにずるずるしゃがみ込むスクアーロに引きずられて私もしゃがみ込む。壁、スクアーロ、私。意味わかんねぇこの状況わけわかんねぇ!!


「ちょ、何してっ!」
「おまえ、今日髪上げてんだなぁ」
「た、体育だからね。長いと邪魔だし、暑いから」
「なるほどなぁ。似合ってるぞぉ!」
「ばっ!いいから離れなさいよ!」
「いやだぁ!」


背中越しに伝わるスクアーロの熱があつい。子どものように背中に頭をぐりぐり押しつけてくる。まだ少し濡れている髪が冷たい。あついのか冷たいのかよくわかんないけど、体感温度はさっきより確実に高いです。助けてください、私こういうの慣れてないです。外だし誰かに見られたらどうするんですかおいこらスクアーロ。


「なに、早く離してよ」
「んー…」
「ちょっと、スクアーロ…?」
「なまえ…」
「い゛っ…!?」


突然項にぬるいものが触れた。ちゅ、と可愛らしい音がした。


「なんつー声出してんだぁ」
「あんたが何してんのよ!」
「だってよぉ、綺麗だったからつい…」
「は、はぁ!?何急に、いいから、離して!」
「だから、やだっつったろぉ」
「ちょっと、なに、近い」


抗議するため、スクアーロ側に向いていた私の首に今度は唇じゃなくて指が触れる。校庭では、ソフトボールをする生徒たちの声と白いボールが飛び交っている。太陽の陽にさらされたボールは眩しいくらいに白い。それとは対照的に影になった私たち二人はやたらと静かで、そんな雰囲気に呑まれてか、私はスクアーロの胸に手を添えてしまった。


「いいかぁ?」
「へ!?な、なにが…」
「キス、してぇ」


上唇をなぞるスクアーロの親指。どくんと心臓が跳ねる。さっきまで私のことなんてお構いなしだったのにいざとなると確認をとるあたり高校生らしい。しかし私も高校生だ。うん、なんて恥ずかしくて言えるはずがない。まっすぐ見てくるスクアーロの瞳に映る自分を見ていられなくて目を逸らす。向こうでは変わらず生徒たちの声がする。私たちも本来はそっちにいなければいけないはずなのに、そう思うとますます顔に熱が集中する。


「なぁ…オレ、もう我慢出来ねえ」
「がっ、我慢しなさいよ!」
「いいだろぉ?」
「っ、ゃ、まっ…」


近づいてきたスクアーロの顔に反射的に目を瞑る。数秒後に触れたのは骨ばった手には似合わない柔らかいもので、どうしたらいいか分からずに添えていた手に力を込めて、スクアーロの白いジャージを握りしめた。
唇が離れても私の首に回った腕と私が添えた手は離れずに、お互いの熱を隠すように下を向いた。
変なの、あんなに怖かったのに、もう一回、したいだなんて。


「柔らけぇ。もう一回、してぇ」
「な、に言って…!」
「っ…」
「んぅ、」


今度はさっきより強く押し付けられた。唇が離れたら、スクアーロは私を身体ごと抱きしめて、私はスクアーロの胸に頭をくっつけて下を向いた。スクアーロはまた、項にキスをした。びっくりして顔をあげると、スクアーロも少し照れたような顔をして唇にキスを落とす。ぎゅううと力を込めて私を抱きしめたスクアーロの心臓は私のに負けないくらい早かった。



誰も知らないファーストキスが二つ


「…嫌だったかぁ?」
「…嫌だったらちんこ握りつぶしてる」
「そうかぁ…」
「ん、」


*以前のサイトにあげてたものを加筆修正したものです
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