いつも黒を纏うあなたを、血にまみれるあなたを、私は好きになったのです。たとえあなたの瞳に私が映っていないと分かっていても、あなたを想うと決めたのです。


任務から帰って談話室を覗くと、明るみはじめた中にスクアーロが寝ていた。音をたてないように戸を開けてスクアーロを見る。閉じた瞳から一筋流れる涙に心臓が鳴る。いつもはうるさくておせっかいなくせに辛いことはいつも一人で背負いこもうとする。

知らないわ、あなたを庇って死んだ女なんて。知ってるのは、あなたがまだその人を想って進めないことだけ。私を見てはくれないことだけ。


「スクアーロ、のカス…」


涙の後に指を滑らせる。私があなたの止まった時間を動かしたい。あなたが私を好きでなくても、あなたに同じ時間を歩いてほしい。


「スクアーロ!スクアーロ、起きて!」
「ん、なまえかぁ」
「私で悪かったわね」
「冗談だぁ、任務疲れただろぉゆっくり休めよぉ」


スクアーロの大きな手が無遠慮に私の頭を撫でる。あぁ、なにも言えなくなってしまう。あなたの時間を動かしたいだなんて言って、早く死んだ彼女のことをわすれ手ほしい私のエゴを気づかされる。

スクアーロの背中を呆然と見送った。寂しそうな背中、泣いていたあなた。私を、好きになればいいのに。そうしたらもっと楽になるのに。前の彼女のことなんて忘れて私だけを見てくれたらいいのに。


「結局、自分がよければそれでいいのか、私は」


汚い自分の気持ちを見ないフリは出来ない。私はきっと誰かのためには死ねない。スクアーロは私と前の彼女を重ねてるみたいだけど、私はたぶん自分のために生きてしまう。だから、どからあなたより先には死なない。もう二度と、悲しい思いはさせない。だから、私を好きになって。忘れなくていいから、私のことを私として見て。


「スクアーロ…」


衝動的な思いに駆られてスクアーロの部屋のドアを開けた。でもその割に声は小さくて臆病にも扉は控えめに開く。


「どうしたぁ、眠れねぇのかぁ?」


あ、その目知ってる。前の彼女と重ねてる時の目。私が一番嫌いな目。


「なまえ?」
「私、スクアーロのこと好きなの」
「急に、どうしたぁ」
「スクアーロはなんだかんだ私に優しくしてくれるでしょ、なんでかなぁ、私のことが好きだからだったらいいなぁって、思ったりもしたよ」
「…………」
「けど私、分かってるんだぁ。スクアーロが前の彼女のこと忘れられなくて、その人と私を、重ねてるってこと」
「……なまえ、」
「気づいてなかった?」
「………」
「気づかないふりしてただけでしょう?私もそうしてた。だけどだめなの、スクアーロには、私のことを、好きになってほしいの」


涙は出ない、泣きたいとも思わない。これが私の気持ちだから。私はスクアーロの泣ける場所になりたい。だから泣かない。あなたのことが好き。そう、それだけよ。
ただ、あなたの傍で、誰よりも近くで、笑っていたいの。


「なまえ、お前を辛い目に遭わせたくねぇ、笑っていてほしい。そう、思っている。」
「でも、あいつの面影を重ねてるって言われて、否定できねぇ」
「オレはあいつを愛している、あの時から、あいつが死んだときから動けねぇ」
「なまえ、」


その続きはわかった。
スクアーロが言いたくないってことも、わかった。
死者に礼儀を欠くつもりはないけれど、私は彼女のことを知らない。会ったことも話したこともない。だから言えるよ。私だけを見て、彼女と違う時間を生きて。私と一緒に生きて。

ずるい女だと思った。でもそんなもんだろうとも思った。ヴァリアーなんかに入って人いっぱい殺してるような人間が天国なんていけるはずない。少しずるいくらい、もうなんでもいいだろう。


「なまえ、ありがとうなぁ」


あなたの腕の中、ぬくもりにまみれて少し感じる罪悪感。それでも喜びに涙がでるのは、少しでもあなたの時間を進められたからだろう。



くちづけから始まる、わたしとあなたの刻む時間







こういうこと普通は思う、自分のことを一番に考えてしまう、でもそれって普通なことじゃないかなぁ、と思って女の子目線も書こうと書きました


130920

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