背中合わせ。振り向けばいつでもあなたを殺せる。あなたが振り向けばいつだって私を殺せる。


「今日の任務はでかいぞぉ!なまえ、後ろ頼んだぞぉ」
「任せといて!」


バカな男だ。私みたいな女に背中を預けるなんて。ヴァリアーの作戦隊長なんでしょう?そんな無邪気に笑っていいの?


「今日任務終わったらオレの部屋来るだろぉ?」
「来てほしいんでしょー」
「うううるせぇ!!」
「行くよ」


心を隠して無邪気に笑った。もう何度もあなたと夜を明かした。あなたの寝顔も何度も見た。そのたびに振り下ろそうとしている刃は、どうしてか自らの左手に制止される。
任務の時に死んだら、敵にやられたという報告で処理が出来るだろうとあなたの背中を任せられるまでになったけど、いつからか私もあなたに背中を預けることに安心感を抱いていた。

わかっている。もう勝負は見えてる。


「じゃあ24時に玄関で」
「あぁ、遅れんなよぉ」
「遅れたことないでしょー!」


ひらひらと手を揺らすスクアーロの背中を静かに見つめていた。私の標的、殺さなくてはならない人。私の恋人、失いたくない人。

電話が鳴ってはっとした。慌てて通話ボタンを押す。


「もしもし…」
「なまえ、今夜だぞ。わかっているだろうな?」
「えぇ、わかってるわ」
「三発こちらが空砲を打ったらスクアーロの背中から離れろ。こちらが仕留める。逃げ損ねたらお前の命もないぞ。まぁ、そんな心配は無用だろうがな」
「…そうですよ、うまくやります」
「では、検討を祈ろう」
「はい、失礼します」


重く感じる右手をだらりと下げる。今日が最後。ヴァリアーに潜入してから長い間ずっとあなたを殺すためにここにいた。いつからかな、あなたを愛しく感じるようになったのは。わからないくらい、ゆっくり、ゆっくり、あなたが大切になっていったのね。

今日私はここを去る。誰にも内緒で進めてきた荷造りも仕上げ。置いていくのは、うん、これ一つでいいかな。


「おせぇぞ、なまえ」
「スクアーロが早すぎでしょー、せっかちだよねほんと」
「けっ、うるせぇ」


二人で黒い車に乗り込む。がたがた揺れる車内でスクアーロの手を握った。窓越しにスクアーロの驚いた顔を見て、握る手に力を込める。スクアーロが手を握り替えして私と同じように窓の外を眺めた。

背中合わせの感触を、温度を、思い出す。たとえどれだけ敵が多くても怖くはなかった。あなたが私の後ろにいるから、あなたが私の背中を守るから。いくら敵が少なくとも怖かった。私があなたの背中を守り抜けるかどうか、あなたの命を自分のせいで失わないかどうか。それも最後、今日が最後。


「よぉし!!たたっ斬るぞぉ!!」
「もう囲まれたし、早すぎでしょー」
「後ろ頼んだぞぉ、なまえ
。剣士に背中の傷はいらねぇからなぁ!」
「スクアーロの背中は傷だらけだけどねー」
「うるせぇ!よそ見してるとてめぇが死ぬぞぉ!」
「はいはい」


一人斬りかかってきたのを合図に四方八方から一斉に私たちに向かって、敵が襲いかかる。スクアーロと私は背中をくっつけて、離れて殺して、またくっつけて。楽しそうにこっちを向いてニヤリと笑うスクアーロに思わず笑ってしまう。敵は雑魚ばかりで数はどんどん減っていく。遠く東の方で何かが光った。

さよならね、スクアーロ。

空砲が一つ。
気づいたスクアーロが東を向く。
空砲が一つ。
振り返った私。スクアーロと目が合って、一言。


「バカね」


空砲が一つ。
さよなら、スクアーロ。


「…なまえ!!!」


ドン、ドンドン。
スクアーロが私の名前を呼ぶ声が銃声にかき消される。三発の銃声が私の背中を打ち抜いた。スクアーロの顔、変なの。まるで愛しい人を亡くす時の顔みたい。

わかってたくせに。私が間者だって、知ってたくせに。あなたを殺すために近づいた私を、その目的を知ってて私を抱いたくせに。バカね、私のこと、愛してくれていたの?


「なまえ、なまえ!!」
「…スク、アーロ…」
「なんで、こんなことした!」
「ごめん、でも、スクアーロに…死んでほしくなかったから、ごめんね…」
「…バカやろう!」
「ちょっと、死ぬときくらい、優しくしてよ、ね」
「縁起でもねぇこと言うなぁ!オレにお前無しで生きてけっつーのか!」
「なにそれ、そんなに私のこと…好きだっ、たの?」
「…当たり前だろぉ」
「……ん、」



あなたの腕に抱かれて、あなたの頬をなぞって、あなたの唇に触れて、死んでいけたら幸せだろう。そう思っていたけれど、違うわね。もっとあなたと共に生きたいと願ってしまう。



「スクアーロ、もう一回キス、して?」


私の未練を奪い去って。



さよなら、ありがとう、好きでした



なまえの部屋はきれいに片づけられていてひどく殺風景だった。机の上に一つだけ置いてあったのは、オレがなまえの誕生日に贈ったリングと小さなメモ。きれいな字を目で追うと、柄にもなく涙が出た。

『私のこと忘れないでほしい。
でもまた違う誰かを愛して幸せになって。
スクアーロが次に誰かを愛したとき、その人の前でこのリング捨てて。
そしたら私のとこにきっと届くから。』







スクさんは知っててその女の子が所属してるファミリーをつぶして女の子が心置きなくヴァリアーにいれるようにしようとしていた途中だったという、裏設定でした。



130915



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