詐欺師専門の詐欺師 | ナノ



これが俗に言う魔が差したというやつなのだろうか。数馬が左門の嘘に騙されていて思い出した、というほど関心がなかった。だってわざわざ嘘をつく日を作るってよく分からない。ちなみに左門は数馬に「実はわたしは地図があれば迷わない!」と嘘をついていた。それならとっくの昔に作が地図持たせてるって。
とにかく。どうでもいい行事だったのだが、思い出すと行動してみたくなるというのは仕方ないことだと思う。騙されてくれそうな人を探して、綾部先輩にたどり着いた。

こんな時、日頃の行いが良くてよかった、なんて思う。普段嘘なんて滅多につかないから、綾部先輩はそうと気付かずに簡単に真に受けてくれる。

「綾部先輩、またターコちゃんですか?毎日毎日ご苦労さまです。作ってもらえるターコちゃんは幸せだって言ってますよ」

穴の中からぐりんと僕を見上げた綾部先輩の瞳はきらきらしていた。嘘、なんですけど…と言おうと開けた口から、言葉が音になって出てくることはなかった。

「本当に?」
「え、ええ!もちろんです!」
「そっか…。ターコちゃんもちゃんと喜んでくれてたんだね…」

本当に愛しそうに土壁に触れる綾部先輩は、多分、嘘ですなんて言ったら、ぶちキレて学園内にターコちゃんを掘りまくるだろうと予測できたので、僕はそのまま綾部先輩の言葉にうんうんと頷くことしかできなかった。

「ターコちゃんを作ってもね、誰も喜んでくれないから、もしかしたらターコちゃんも喜んでいないのかもしれないと思って」
「そ、そんなことないです」
「藤内にはターコちゃんの気持ちが分かるの?」
「、はい…」

最早僕が綾部先輩を騙そうと嘘をついているのではなく、綾部先輩を傷付けないように嘘をつかされている、に近い。話の内容をよくよく考えると、なんなんだ僕、メルヘンの国の出身か何かなのか。
半ばパニック状態の僕をよそに、綾部先輩は未だ自分の世界に浸っている。

「藤内とターコちゃんは仲良しなの?」
「え、と…会えば挨拶する程度、ですかね?」
「そう、」

待て待て。雰囲気にのまれるな自分。

「私のこと何か言ってた?」
「い、いい人だと、言ってました…!」


完敗。色んなものに負けた。エイプリルフールとか綾部先輩とかターコちゃんとかそういうものに負けた。泣きそう。
これ以上話しを続けたら気が触れそうだと判断して、素早くその場を立ち去ると、後ろの方から大声で。

「はっぴーえいぷりるふーる!」

嘘と知っててやってたのかよ…。
敗北感に満ち溢れた昼下がり、ターコちゃん27号に落っこちていた数馬に便乗して穴に入り、しばらく慰めてもらった。




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(藤内ってたまにすごく面白いなー)





20100406.
四月馬鹿様に提出。


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