※現パロ





 眼鏡屋の店員がみんな眼鏡を掛けているみたいに、奴の指にもシルバーリングが光っている。リングだけじゃない、耳やら首やらいたるところに揺れているものだから、否が応でも視界に入るのだ。奴の身体は穴だらけだ。耳と臍と耳と耳と耳と、舌。
「よっ」
「よ、じゃねえよ。何分遅れてるかわかるか? 時計の針が読めるか?」
 煙を吹きかけるように吐いてやると留三郎は、悪かった、ここは俺が持つと言ってからから笑った。なんだ、今日は機嫌がいいらしい。灰皿に溜まった灰を見せつけるみたいにして大げさに煙草の火を消した。
「おまえ禁煙しろよなー。肺が真っ黒だぜ」
 言いながら奴は俺のコーヒーを自分の元に引き寄せて、ポーションミルクをふたつとスティックシュガーを1本遠慮なく入れた。数秒後にやってきたウェイトレスにアメリカンコーヒーをもうひとつ注文する。留三郎はBLTサンドとフレンチフライポテトとバニラアイスクリームをメニューも見ないですらすら言い、コーヒーをひとくちすすった。
「おまえは自分の穴だらけの身体のこと心配するのが先だろ」
「根に持つよなあ、わりと」
 べーっと舌を出したそこには縦に3つ、まあるいピアスが光っている。それを見るとなんとも言えない気分になる。触れるともっと。

 それは留三郎の浮気相手が置いていったブローチだった。ビーズで花を象ったやつで、赤だったか青だったか、形ばかりよく覚えている。
 今となっては実際に浮気していたのかすらわからない。奴は否定しなかったし、謝りもしなかった。俺は何も聞かなかったし、大切なのは真実ではなくてその状態であるという事実なのだ。生憎俺たちは壊れた関係を作り直す方法を知ってしまっていた。相手に傷をつけることこそ俺たちの日常で、そういうふうにしてしか、繋がっていられない。
「痛くないんだって、本当に」
 留三郎は裏側からひと突きして、舌の表面には鈍く光るブローチの針の先が見えていた。安全ピンより全然太い針だ。シンクに吐き出した血液混じりの唾液は妙にきれいだと思った。

「知ってるか、穴って全部性感帯なんだぜ」
「……おもしれえ」
 試したいか、なあ、と口を開けて笑う滅多にない上機嫌な留三郎の、舌に耳に、傾き始めた陽があたっていた。もうそんな時間か。





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2011/03/07
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