※現パロ





 留三郎の付き合う女の子が特に香水をつけすぎているのか、女の子というのが一般的に香水をぷんぷんさせているのかはわからない。でも彼の部屋に行く度甘い香りが漂っているので、女の子の置いていった香水の小瓶を見つめながら僕は鼻で呼吸をするのを止め、すぐにでも、きらきらかわいらしい、華奢な、女の子そのものを表したみたいなそれらを叩き割ってしまいたい衝動に駆られる。もちろんそんなことはしない。
 その代わりに僕は、彼の部屋で見つけた香水という香水を自分の部屋に再現している。棚にずらりと並べ、朝日を浴びるとなかなかきれいなものだ。ブルガリのローズ・エッセンシャルは留三郎の初めての彼女。グッチのエンヴィの子と別れた原因は留三郎がクリスマスをすっぽかしたから。僕が奇しくも車に撥ねらて。その日に僕は失恋したのだった。留三郎はこの世の終わりみたいな顔をしていて、僕の頬を少し抓って無理に笑ってみせた。恋人より何より友情を優先した彼の、自分はそれ以上の恋人にはなれない。何があっても。
『……もしもし?』
「寝てた?」
『わかってんならかけてくんなよ』
 留三郎は電話口でいつだって不機嫌だ。早朝でも昼間でも深夜でも。嫌がっているわけではないのを知っているし、なんだかんだ電話には出てくれるので僕は笑ってごめんねと言う。
「今日一緒に図書館行こうって言ってたでしょ、でも行けなくなっちゃってさ」
『あー』
 僕は香水の小瓶を片手に持てるだけ持って浴室の扉を開けた。今週提出のレポートにかこつけて彼ら(留三郎と、今の彼女さん)の記念日に勉強に誘ったのは僕だ。留三郎は、べつにいいのに、とどこか決まり悪そうに言ったので、愛おしさを殺すように、そんなんじゃないよ、と頭を振る。そんなんじゃないんだよ。じゃあね、と受話器を切って、香水の小瓶をタイルに叩きつけると、思ったよりもあっけなくそれらは割れた。途端に強い芳香が一気に漂って、それはもう芳香というより悪臭に近かった。部屋の中で割れないのが僕らしいなと思う。ヒステリックになりきれない。浴室の窓を開けて、行き場のない気持ちみたいにたまったもったりした空気を逃がしてやる。泣いたら楽になれるだろうか。





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2011/01/26
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