※現パロ





 伊作は字を書くのが遅い。一画一画丁寧に、一文字ずつゆっくり書く。その字は角がきちんととがっていて、全体的に四角いのだった。
 メモの内容はこうだ。
・電球×2(40W)
・掃除機の紙パック
・醤油
・米
・シーツ
「あとなんかあったっけ?」
「ゴミ袋は?」
「あー」
 伊作はまたゆっくりペンを走らせる。走らせるというより、下書きされた文字をなぞるみたいに。
 車で40分ほどかかる、郊外のショッピングモールに買い物に行くとき、俺たちは若干はしゃいでいる。もちろんそんなことは口に出して言わないけれど。歩いて持って帰るには重いものや、普段買わないものを買うので、これは一種の行事なのだ。昼食は外で食べ、夜は買ってきたもので作る。
「あとは?」
「洗濯用洗剤」
「あー」
 俺は電気ケトルのスイッチを押した。まだかかりそうだ。

 食料品売場を一周し終わる頃にはカートに積んだカゴはふたつともいっぱいになっている。その半分くらいはカップ麺やら目に付いた菓子やらチューハイの缶やらだった。
「春キャベツってなんか」
「春?」
「心が浮き立つよね」
 伊作はキャベツを一玉手に取って、それ俺に押しつけた。伊作がキャベツの葉を剥くと、ほとんどと言っていいほど青虫に遭遇する。
「ロールキャベツかトンカツかポトフ」
 伊作はじっくり考えてから、「千切りがいいなあ」と呟いた。

 日差しはもうすっかり春だった。窓を少しだけ開けて車を走らせる。きっちり40分に編集されたMDと伊作の鼻歌。乗り物に乗るとき、伊作は進行方向をじっと見つめる癖があった。電車でもバスでも。
「明日は何しようか」
「どっか行くか?」
 わあい、と言葉の通りに言って伊作は一瞬こちらに視線を送った。
「君の運転する車に乗るの、好きなんだあ」
 春に心が浮き立つ、というのはなんとなくわかる気がした。伊作の声も表情も仕種もぜんぶぜんぶやわらかい、たぶん俺も、伊作の目にはそう映っている。そういうふうになっているのだ。





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2011/01/20
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