※現パロ高校生





8:00
 始業のチャイムまではあと30分もあるのに、校舎は昼休みみたいにざわついていた。デジカメのフラッシュ、外からはボールを追いかける声。球技大会の朝はいつもこんなかんじだ。伊作がまだ来ていないのもいつも通りだった。俺が来たのと入れ違いで出ていった。ジャージの長袖を忘れたらしい。

10:30
 サッカーは校庭だった。入っている部活の種目に出てはいけない、のだが、七松小平太に関してはあまり意味がない。出場禁止にでもならなければ俺たちに勝ち目はないだろう。15−0、まだ後半は始まったばかりだ。みんなあまりやる気がない。

12:00
 俺たちのクラスはもうほとんどの種目負けてしまったらしい。今年も6組が勝つよなあと言うと伊作はどうでもよさそうに笑った。右手の人差し指が包帯でぐるぐるに巻かれていて、箸を幼稚園児みたいな持ち方で操っている。バスケットで突き指、これも毎年ある風景だ。あまりにも不憫なので俺のパンと伊作の弁当を交換した。善法寺家の焼き菓子みたいに甘いたまご焼きは嫌いじゃない。
「でも毎年6組にアイス持ってかれるのはなあ」

13:00
 唯一勝ち残っているバレーの応援に行くかそれぞれ好きな場所でサボるか、だったら後者を選ぶだろう。自販機のペットボトルは全部売り切れていて、冷たいものは豆乳ドリンク(いちご・バナナ・ココア)しかない。
「あ、でも結構いけるかも」
「豆腐とバナナの香料混ぜた味がする」
 伊作には不評だった。

13:10
 自販機の横には机と椅子がいくつかあり、そのうちの日の当たらないところに座って時間を潰した。七松小平太がゴールを決める度に歓声が上がるのが校庭から聞こえた。もはやパフォーマンスなのだ。
「球技大会があると秋も終わりって感じだね」
 あたたかいココアのパックを吸い上げながら伊作は言った。終わったら受験モードだね、と、全く同じ調子で続ける。
「最後の球技大会だねえ」
 まるでこの世界最後の秋が終わるみたいに。

14:50
 一際大きい歓声と笛の音が聞こえて試合が終わったのだと知った。伊作は影の移動に合わせて椅子を動かし、今は俺の向かい側で突っ伏して寝ている。
「終わったみたいだけど」
「うーん」
「閉会式」
「うん」
 頭の部分に日が当たって、もともと色素の薄い伊作の髪をいっそう透かしていた。ワックスで少し浮いた髪。
「あのさあ」
「起きたか?」
「好きだよ」
 顔を上げて言ったから聞き間違いとは思えなかった。それから伊作は欠伸をして、スリッパみたいにかかとのつぶれた上靴を履き直す。マグニチュード5の地震が起きても、地震だよ、って、今のと全く同じ言い方をしそうだと思った。
「もっと驚いてよ」
 伊作はそう言って廊下を歩きだした。その言葉の意味を少し考えて、
「豆乳?」
「はあ?」
 閉会式が終わったら冬が来る。





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2011/01/20
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