※現パロ



僕は本気になれば魔法...
やめよう、もうこうい...
「あれ、今帰り?」タ...
今年生物部は水槽でミ...
善法寺はただぽけっと...

















 
 僕は本気になれば魔法を使えるかもしれない、と、わりと真剣に思っている。じゃなかったら君が僕を好きになったりするはずはないもの。
「火曜と木曜は僕が食事当番だろ? だから、火曜と木曜のごはんには、君が僕を好きになるおまじないをかけてたんだ。ずっと」
「へえ」
 留三郎はカレーライスをのせたスプーン(白米とカレーのルーが半々の)を口に運びながら、てきとうに相槌を打った。これはてきとうに見えた、というわけではなく、本当にてきとうだったのだ。真剣に話を聞いてくれるときは、ちょっと声のトーンが違う。低くなる。
「怒らないの?」
 日曜日に一緒にごはんを食べるのは久しぶりだった。一応金曜・土曜・日曜日は当番を決めていなくて、予定が合えばこうして一緒に食べる。今日は一緒にカレーを作った。僕らはふたりとも辛いものが好きなので、辛口である。
「じつは俺のが先に掛けてたんだよ、そのまじない。だからおまえが俺に惚れたのはそういうわけだ。残念だったな」
「……聞いてない!」
「言ってねえ」
 留三郎は早々に一杯目を平らげて、おかわりをよそうために立ち上がる。ついでに空になった僕のコップも連れていく。冷蔵庫が開く音がした。
「ねえそれ本当?」
「本当本当」
 留三郎は声に笑いを滲ませてこちらを振り返った。その笑顔を見ていたら、もしかしたら本当に罠にはめられたのかもしれない、と思い、まあ、それでもいいか。


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愛されたいから仕方ない/twitter診断メーカーより
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 やめよう、もうこういうのやめよう、と伊作は泣きながら言った、何度も何度も、アルコールくさい息を吐きながら。やめよう、つらいからもうやめにしよう。そういうとき俺はひたすら背中を撫でてやる。どこまでも平らで、骨ばった背中だ。
 伊作は酔うとときどきこうなった。俺と飲んでいるときはいい。ずっとご機嫌で、そのままころっと寝てしまう。でも真夜中にふにゃふにゃになって帰ってくるとき、俺を視界の中心に認めた途端泣き始める。まずじわっと涙が溜まって、ボロボロ零れていく。そのことについて、本人は覚えていないらしい。朝起きるとけろりとしている。
 俺は何回も何回も、伊作の口から伊作の声で、俺ばっかり何回も、別れよう、やめにしよう、と言われる、それが本心なのかは知れない。言われる度、小さな引っ掻き傷がたくさんつくのを感じる。塩分を含んだ涙はその傷に沁みないけれど、とても冷たい。
 伊作は袖で涙を拭い、水分を吸わないセーターは涙を引き伸ばしただけだった。タオルケットで顔を拭いてやると、伊作はまた大きな瞳に涙を浮かべた。睫毛がびっしょり濡れている。ひどい顔だ。眉は下がりきってるし。
「やめたいんだ」
「うん」
「きみは不幸だよ。これから先もずっとそうだ」
「うん」
 受け入れても、はねつけても泣く伊作は子どもみたいに純真で、そんな伊作を、俺は楽にしてやれない。


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君がいなきゃ息も上手に吸えない/twitter診断メーカーより
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※塾講伊作と生徒食満


「あれ、今帰り?」
 タイムカードを押していると、靴箱からスニーカーを床に落とす音が聞こえた。肩からエナメルバッグを掛けた留三郎は、うん、と頷き、かかとを踏んで靴を履く。時刻は11時になろうとしているところである。
「自習してた」
「そっか、がんばるね」
 お先に失礼します、と教室内に声を掛け、一歩外に出ると、マフラーを忘れたことをひどく後悔した。忘れたのだから後悔もなにもないのだけれど、そういう不注意な自分に、だ。
「さみー」
 灰色のマフラーを巻いた留三郎はそうひとりごちた。僕の身長は175センチあり、留三郎がここに入ってきたとき、まだ20センチは差がありそうなものだった。細っこくて、生意気で、英語がてんでだめだった。それが中1のときで、二年経った今、目線はほとんど同じ位置にある。
「伊作は今日チャリ?」
「うん、そう」
「じゃあ一緒に帰ろうぜ」
「下心見え見えですけど……」
 まあいいじゃん、と留三郎は自転車の鍵を開け、俺コンポタ、なんて言ってもう駅前のロータリーに走り出していた。僕は教室から家が近かったので、ときどき生徒に捕まっては、おごらされるはめになる。ため息めいたものは白く流れた。
「志望校決まったの?」
 120円入れるとボタンのところのランプが一斉に点灯した。コーンポタージュを押し、また120円入れて、僕はおしるこを買う。そんなの誰が飲むのかと思ってた、と笑う彼の表情が、安っぽい蛍光灯の光に照らされる。
「そろそろ決めないと」
「伊作の行ったところに行く」
「えー行けるの?」
「行く」
 留三郎はばっさりと言い、存外にその言葉は大人びて聞こえた。いつの間にこんなに大きくなったんだろう、と思った。自分に子どもがいたらこんなかんじなんだろうか、いや違うな、弟とも違う、きっと僕らだけに当てはまる。


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一緒に帰ろう/twitter診断メーカーより
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 今年生物部は水槽でミニトマトを育てた。水耕栽培というやつで、存外にすくすくと育つ。収穫したそれはちゃんとトマトの味がしたし、酸味と甘みのバランスのとれた、見た目も赤くまるくかわいい。しかしそんなものをわざわざ特別棟まで見に来ようなんていう物好きはいないもので、僕はひんやりした黒い実験台に頬をのせ、ため息ともただの呼吸の一環ともつかないものを吐き出す。
 教室棟は賑わっているようだった。この学校は駅からも近いし、そこそこ規模も大きいから、毎年文化祭はぐちゃぐちゃだ。人ごみで。
「あっ伊作」
「おっ」
 ぺたぺたと踵の潰れた上靴で階段を上がってくる音は聞こえていたけれど、顔を上げる気にはなれなかった。
「どうしたよ」
「頭痛くて」
「そっか。平気?」
 留三郎は僕がいつも買うパックジュースと、たこ焼きのパックを実験台に置いて隣に座った。口調こそ心配そうなものだけれど、僕にそこまで関心を向けていないのはわかる。頭痛? そのうち治るだろ、って奴だ、君は。それになんたってお祭りなので。たこ焼きを食べようと開いたその口にミニトマトを押し込んでやった。
「んだよ」
「よくできてるだろ?」
 代わりに僕はたこ焼きを口に突っ込まれて、すっかり冷めていたけれど、うん、普通においしい。
「それ、水槽で育てたの。土を使ってないんだよ。土がなくたって植物は育つんだ」
「へえ」
 なくてもいい。なくても生きていける。でもたぶん、あったほうがいい。そういうのって結構あるものだ。
「よしっ行こっか!」
「おー平気なった? 何食う?」


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文化祭な伊食満 乗り気の食満に引っ張られる伊作/リクエストより
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 善法寺はただぽけっと信号待ちをしていた。そう言ってしまうのは少し違うかもしれない。善法寺は信号が青になっても動くことなく、ただそこに突っ立っていたからだ。その横顔に見惚れた。善法寺の横顔は、計算し尽くされた彫刻よりずっと、美しい、という言葉が似合うかもしれない。授業中によく見る横顔。いつも彼はずっと窓の外を見ている。
「おい善法寺!」
「先生」
 教室で声を掛けられたときと、それが京都の街中であっても彼の反応は変わらなかった。ゆっくりと顔をこちらに向けて、ただじっとこちらを見る。表情は笑顔の途中みたいに、中途半端に眉が下がっている。
「何やってんの? 班の奴らは」
「ああ……僕がいるとバスに乗れなかったり、電車止まったり、入館できなかったり、雨に降られたりするので、なんだか悪くてはぐれてきたんです」
 信号が赤になって目の前を車が流れる。そうすると風がいくらか押し寄せて、善法寺の前髪を揺らした。曇り空の下、それはなんだか心許なく見えた。
「教員にばれたらそれこそ迷惑だろ」
「そこはまあ、上手くやるんです」
「今見つかったけど」
「見逃してください」
 だんだんヒトの作る表情を思い出したのか、善法寺はくるくる愛嬌よく笑った。これじゃあ他の教員も許してしまうかもしれない。
「おまえはつまんなくねえの?」
「楽しいです。楽だし」
 善法寺はそう言って信号に目を向けて、その横顔、睫毛の驚くほど長いこと。
「……じゃあ今日は俺と回るか」
「へ」
「嵐山はみんな明日行くから、誰もいないと思うけど」
 青に切り替わった信号、横断歩道に踏み出す。動こうとしない善法寺の腕を引いて、そうすると彼は声を上げて笑った。


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生徒×教師/リクエストより
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2011/10/21〜
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