※現パロ高校生





 いいことが起きると、後を追うようにして必ず悪いことが起きる。逆も然り。そう感じる、とかじゃあなくて、どうしようもない事実なのだ。これは僕が確信を持って言える数少ない事柄のひとつだった。僕はコーヒーが飲めないけれど一年後には飲めるようになっているかもしれない。目玉焼きすら作ることはできないけれど、五年後にはキャベツの千切りだってできるようになっているかもしれない。つまり自分のことですらはっきりと断言できない中で、このことは明日も明後日も来年も十年後も変わることがない。
 そんなだから僕はいいことが起きるとその嬉しい気持ちが消えないうちから不安になり始め、悪いことが起こるとどこか救われたような気持ちになる。追いかけっこみたいにぐるぐるまわっている。暇で暇で仕方ない神様がずっと僕を見ているんじゃないか? きっと個人の幸せの総和というのもは決まっていて、その中で僕らは生きている。隣人のほうが幸せだったり自分のほうが不幸なんてことはない。

「さみー」と言って留三郎はコートのポケットに手を突っ込んだ。「さむいね」今日だけで何回繰り返したかわからないやりとりをして僕はマフラーを鼻の上まで引っ張り上げる。僕らはお互いひとりのときはとても早く歩くのに、ふたり並んで歩くとゆっくりになる。
「はらへったなー」
「飴食べる?」
「食う」
 僕は手袋を外して鞄のポケットから飴玉の袋をふたつ取り出した。サイダーの飴、桃とぶどうなら留三郎はいつもぶどうを選ぶ。差し出された手にのせるとき、触れた指先が思ったよりあたたかくてびっくりした。いや彼の手の温度なんて考えたことはない。その必要がないからだ。手を握る必要なんてどこにもない。これからもない。
 晴れているのに風ばかり強かった。日差しは地面に向かう途中で風に吹き飛ばされてしまうのかまるで弱々しい。牛乳を一滴垂らしたように薄く白が張る空を見上げる、神様を睨みつけるみたいに目を細める。なんだってそんなお暇をしていらっしゃるのか。
「おい」
 不意に、服の肘のあたりを軽く掴まれた。「信号、赤だって」
 留三郎は左の頬にリスみたいに飴玉を入れて、もごもごさせながら言った。
「ぼーっとしてた」
 はは、と笑うと留三郎も笑う。慣れているのだ。「さみー」と言って、手はまたいつの間にかポケットに仕舞われていた。嬉しいのか悲しいのか悔しいのかわからなかった。たぶんそのどれもだ。
 もし、もしもの話、僕が告白したらどうなるだろう。そんなことをよく考える。いいよって言ってくれたら、それほど幸せなことがあったらきっと僕は死んでしまうかそれくらいひどい目に遭うに違いない。だからそんなことを考えるときはいつも、屋上や駅のホームや交差点や、その他さまざまな死因の考えられるところでは告白できないなあと思う。
「おい今度は青だよ」
「わ、ごめん」
 誤魔化すみたいに笑って、そんな僕らの吐く息は意味もなく甘い。





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2011/01/20
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