※現パロ





『伊作いる?』
『いる』
 素っ気ないメールに手早く返信してパタンと閉じる。顔を上げると伊作は、真面目に聞いてんの? と机をばんっと叩いた。私はその色の薄い瞳をじっと睨むように見つめる。耐え切れなくなった伊作は萎れたようにうなだれて、机に突っ伏した。さっきからこんなことの繰り返しだ。
「何言ったか、だいたい覚えてるからやだ……」
「好きだ、おまえが好きだから傍にいたいし、傍にいたら触りたいしキスしたいしそれ以上のこともしたくなるって?」
「そこまで露骨に言ってないよ!……と思うよ……」
 伊作は眉を下げてこちらを見上げ、たぶん、と弱気に付け加えた。
 伊作は酒に強いしそんなに悪酔いする質でもないのに、まあ飲みたくなった気持ちもわからないでもない。一ヶ月以上かけて準備してきたゼミの発表当日に電車が止まって遅刻するわ、携帯を五階から落とすわ、高校のときから使っている腕時計をなくすわで散々な一週間だったらしいから。そこに居合わせたのが留三郎だったのだ。不運にも。
「で? 留三郎は」
「勿論、帰っちゃったよ。帰るって言われたの覚えてる」
 携帯を開いて時間を確認すると四限が始まったところだった。私も伊作も授業が入っていたけれど、伊作が腰を上げる気配はなかった。
「今落ち込んだってしょうがないだろう。終わったことは終わったことだ」
「こんなことなら言わなきゃよかった。そもそも言うつもりなんてなかったのに。……ただ好きなだけでよかったんだ」
「嘘つけ」
 手の中で携帯が震える。
『いつものとこ?』
『ちゃんと考えてから来い』
「……うん」
 伊作は腕に顔を埋めて声には涙すら滲んでいた。そんなに好きだったのか、とふと思った。伊作が留三郎に気のあることは一年のときから知っていたけれど、なんだか実感がなかったもので。泣くほど誰かを好きになったことなんてないし、泣くほど好かれるというのは一体どんなものなのだろう。
「好きって言いたいし触りたい、でも、もう話もできないかもしれない」
 いよいよ泣きに入りそうだったので私はちょうど着信を知らせ震える携帯を伊作の頭に投げ付けて立ち上がった。いてっ、と情けない声を出した伊作も顔を上げる。
「代返しといてやる」
『酔ってない伊作と話してみる』
「えっ? 何なに、って……え!!」
 仙蔵どういうこと! とわめく伊作と他人の振りをして、ちょうどきたエレベーターに滑り込んだ。やっぱり、と思い直す。恋愛なんて面倒くさいばっかりだ。





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2011/05/12
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