#6



11

………静かだ

気がつくと、物音一つとしない空間が広がっていた
レンガ造りの壁、天井、床だけがある
…ドアがある

出てみよう


部屋を出ても、レンガ造りの壁に囲まれた空間が広がっているだけだった

そして次の瞬間
ぶわっと光が広がる

………ここは?

外の様だ

『ティニ…』

「………ビクティニ?
居るのか?」

『ティーニ』

ビクティニが目の前に現れる
が、あちらからは見えていないらしい

結界の外を見ている
……あぁ、海が見える

[青い
キラキラ
行ってみたい]

……海に行きたいのか?

[王様
居ない
……ずっと、いない
かなしい
さみしい]

「……ビクティニ、」

王様だのの話は、千年前の話だと聞いた
やはり、ビクティニは千年間ずっと
結界の中で…

「トモダチは出来るだろうけど、ビクティニほど長生きしないんだよな
……さみしいよな」

千年もこの結界に囚われて
ビクティニが恋しがってる王様も居なくて

この地にずっと縛られて

「……柱を、どうにか出来たら………してやれたら……」


自分には、そんな力は無い




「………ん、」

なんか揺すられてる…
何………

「……起きたかい?」

「んー…」

「ヤヅキ起きて、ほら」

「………ん?
デント?」

目と鼻の先にデントの顔がある
ちっか
なんで?

「あのまま寝ちゃってたみたいで……今時計見たら、5時だった…朝の」

「………うそん
寝過ぎ……あはは」

「ふふっ、そうだね
寝過ぎちゃったね」

どれだけ寝てたんだ、と笑みが溢れる
流石に、寝過ぎだって…

「……ビクティニってさ、すげぇさみしかったんだろうな」

「…急に、どうしたんだい?」

「いや、夢で見て………千年も、ここになんて………
どれだけ、っ」

ヤヅキの手が震える
デントが静かに手を重ねた

「……ヤヅキは優しいね
そういうところ好きだよ」

デントがヤヅキの手を撫でる
彼女は、その手を顔へ引き寄せた
そして弱く握った

「……ん、ごめん
ちょっとだけ」

「……僕でよければ」

デントは静かに笑って、珍しく甘えを見せるヤヅキの背を撫でた



12 動き

流石にこの格好のままでは寒いということで、着替えに行く事にした

「……ちょっと寒い」

「毛布なかったら凍えてたね
誰かがかけてくれてたみたいだ」

「デントー毛布かしてー
寒い」

「そんな薄着じゃね……寒くて当たり前だよ」

「早く、着替えよ…」

山間部のこの場所で薄着は辛いだろう
毛布を被るヤヅキに苦笑しながらモーモントさん達の家へ戻った



「やった、乾いてるー」

「良かったね
早いとこズボンも履きなよ
僕あっち行ってるから」

「はいはい」

やっと何時もの服に戻れて安堵する
……そういやシェイミ達は?
あいつら、どこ行ったんだろう

「ヤヅキ、着替えた?」

「…あぁ
なぁ、シェイミ知らね?」

「……ここで寝てる」

「……堂々とソファー占領してるな
このやろう」

人んちだってのに遠慮しないシェイミに呆れ返る
図々しい奴だな……

「とりあえず、回収」

「まだ寝てるみたいだね」

「……うん
まぁいいや、フード突っ込んどこ」

シェイミの定位置となっているフードに割とそっと入れる
後は知らん
そのうち、あ起きるでしょ

「………ヤヅキ、日が出てきた
ほら」

「おぉー……結構キレイなもんだな」

雲に日の光が反射して、眩しく見える
微妙に、少しづつ光の加減が変わっていくのをじっと、黙って眺めていた

「………こういう当たり前の事が、いつまでも出来たら、いいな」

「なんだい?急に
何かあった?」

「いんや、なんでもねぇよ」

時々忘れかけるが、自分は異世界の住人
この世界での存在が許されるかは分からない

でも、シェイミ達に出会って、デント達と旅をして………あんな、望みも何もない世界になんて戻りたく無くなってきている

友達と呼べる奴も居ない
親なんて自分達のことなかり
あんな場所に戻って何が楽しいのだろうか
ただ無意味に時間だけが過ぎていくだけでは無いだろうか

戻りたく、ない
………戻りたくは無い、が………
この世界に悪影響でも出るのなら、戻るか死ぬかはしようと思っている

自分のわがままのために、このキレイな世界を壊したくない

でも、こいつらと離れるのは………嫌

不安定な自分の立場に、不安さえ募る
戻らねばならぬのなら、こんな絆、作らなければなんて思うのかもしれない

別れが辛いだけだと思うのかもしれない

ここは、居心地が良すぎた

「………離れたくない」

そんな時、突如として異変が起きた






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