店をしめようとしていたのか椅子を立ち硝子戸の方へ向かおうとしていた兎崎は
店内を見回しながら入ってきた坊主に気づくと足を止めた

そして確認するように目を細めると「ああ」と思い出したように目を開き
「こないだの」と言いながらレジ台の上に軽く腰を乗せた


坊主はそうですと言うかわりに遠慮するよう眉をさげどうもと頭をさげると
「こちらの駄菓子屋さんだってユウタ君から聞きましてね」と笑い、ひとつまたひとつと駄菓子を手にとった


「今日は店がよく混む」

その様子を見ながら兎崎がぼそっと呟くと

「孫に何か買っていってやろうと思いましてねぇ。いつもは混まないんですか?」

と坊主は顔をあげレジ台まで進み兎崎の乗っている横へ駄菓子を置いた

兎崎は腰をあげレジ台の中へ回ると計算機に打ち出した数字を坊主に向け微笑む


「そうだね。やってない事の方が多いし。」

「ほぉ、そうですか。いやぁ駄菓子屋なんて懐かしいなぁ最近は駄菓子屋なんて見かけないですからね…いつからこちらで駄菓子屋を?」

「ついこないだ。」

兎崎は笑顔で坊主を見た

が、坊主には目が笑っていないように見えた

同時に兎崎も坊主に対して同じ事を思う

お互いに何か真意を隠しながら探っているような雰囲気に店内の空気が変に張り詰めた

時計の針がひとつ動く音が不気味に響く


坊主がレジ台に代金を出す

兎崎は計算機を叩き打ち出された釣り銭をレジ台に乗せ坊主の方へ寄せると
先程の話しの続きを先に口にした

「…その前までは別の町でやってたよ。そのまた前はまた別の町。ところでまさか経営するにあたってのあーだこーだを言いに来たわけじゃないよね」

兎崎が沈黙をさくように笑うと
坊主も小銭をとりながらいやいやまさかと笑う

「そうだろうね。言いたい事があるならはっきり言いなよ。何か言いたい事があるんでしょ?」

兎崎が口角をにぃっとあげてみせると
坊主はおっしゃる通りといった顔で息を吐き笑った

「以前隣町で"幽霊駄菓子屋"の噂がたった事がありましてね…その前はまた別の町で。今はこの町で」

兎崎は駄菓子の詰められた袋を台に乗せると頬杖をつき
他人事のようにふーんと坊主を見上げる

「まぁ…私はそういった事はよくわかりませんがね…。噂は噂ですし」

そこまで言うと坊主は頭をかいた

「ここから少し離れたところに私の寺があって私はまぁそこの坊主です。ただの坊主です。ただ…」

坊主は今度は頬をかいた

「こんな小さな町でしょう?噂は大きくなってすぐ広がるもんで井戸端会議のついでに私に相談される方もいましてね。一度あの駄菓子屋を見て来てくれとあまりに言われるもので…なんというか子供はそういう噂話しみたいなものとか好きですし、子供が行って大丈夫かとか。ただの坊主ですから私に相談されても何もできませんよって言ったのですが…まぁ一度来てみようかと」

そういうわけなんです、と申し訳なさそうに坊主はレジ台から駄菓子の袋を持ち上げる

「それでお坊さんどう、噂の場所に来た感想は」

口元にからかうような笑みを浮かべると兎崎はそう坊主に問いかけた

坊主は益々困ったようにこれでもかと眉をさげ、「うーん」とまた頬をかくと暫く考え

「風変わりな店主のいる駄菓子屋…ですかね」

と目にしわをつくり笑いながら振り向き「それと、薄暗い」と付け加えた


「勿体無い程の感想だ。薄暗くて不気味な駄菓子屋が心霊スポットにならないように気を付けるよ」

そう伏せた目で笑みを浮かべながらレジ台の前へ回ると
鍵をしめにいくついでに坊主を硝子戸まで送った

会釈をし背を向ける坊主を見ながら硝子戸をしめると
閉めきる寸前に坊主が振り向き

「もうひとつ―――」

と口にし兎崎はぴたりと手を止めた

「もうひとつ感想を言うと、店主さんあなたからは"温かさ"を感じない」


その言葉を聞き終えると兎崎は無言のまま笑みを浮かべ硝子戸を閉めると遮断するようカーテンをひいた



第一話 完





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