おまけの小話その2

【突然現れた駄菓子屋】

「あちぃーなぁ…」

というダルそうな声と同時に
駄菓子屋のソファーに座り宿題を拡げるミキとユウタの向こうで、硝子戸がガリガリと小石を巻き込む音をたてながら開いた

レジ台から呆れ顔を向ける兎崎の視線など慣れたもんなのか
まったく気にもせず声の主は当たり前のようにアイスケースを開けお気に入りをひとつ取り出す


「あのさぁりーこ、そのうちそれまとめて請求するからね。」


そう言い兎崎は視線を里衣子から黙々と宿題を進めるミキとユウタに移すと

「ユウタくん達だってちゃんとお小遣いから駄菓子代出してるのにさ」

と背もたれに深く寄りかかり

「誰かさんと違って大人だよねぇ」
と細めた目の上の眉をあげた


その視線の先で里衣子は納得いかないと反論するかのよう、袋から出した棒つきアイスを兎崎の方にビシッと向ける

「アイスくらいタダで貰って当ーぉ然っ!あのなぁ、誰がこの店の荷物運んだりしたと思ってんだ。」


里衣子様様だな
と言いながら兎崎の方を指すアイスを上下に揺らす里衣子の横で
ミキが顔をあげ「しーっ」と人指し指をたてた

遠慮なしに大きな声と動作をする里衣子が宿題を進めるのに煩かったのだろう

里衣子は珍しく真剣に鉛筆を握る二人に驚いたように目を丸くするとアイスを口へ運ぶ

ミキが再び宿題に視線を落とすのと入れ替えにユウタが勢いよく顔をあげた

「なんだよ」と驚いた里衣子が再び目を丸くすると
同じように丸い目をしたユウタが里衣子の方へ体を向けた


「荷物を運んだの!?」


はぁ?と眉間をよせパキッと前歯でアイスを噛む里衣子に
ミキもハッとしたように顔を向けた

「そうよ!荷物!運んだの!?」


何故か荷物を運んだという言葉に疑問と興味を持つ二人に里衣子は更にわけがわからないという顔を返す

「なんだよ運んだかってよ!?運ばなきゃどうすんだよ!?勝手に動いてくれるもんじゃあるまいし」

言いながらソファーへどかりと腰をおろすと里衣子は「あぁー!」とからかうようにニッと口を横に開き二人を見た

「おまえら棚やレジ台が百鬼夜行よろしく行列作って夜な夜な駄菓子屋まで歩いたとでも思ってんだろ!?」

「ひゃっきやこうよろしく?」


ははんと得意げな里衣子の横でユウタが眉を寄せ考え込む顔をした

期待はずれの反応のユウタに話のテンポを崩され肩を下げる里衣子が、「百鬼夜行はわかるか」と指をさすとその先できょとんとしたユウタが首を横へ振った


「じゃあ聞かなかった事にしとけ。妖怪の行列みたいに勝手に棚が動いて移動してきたと思ったのかって事だよ。つかそんなわけないだろ」


里衣子の言葉に二人は「えぇー」とがっくり肩を落とした

「だってさぁ、駄菓子屋できたとき商店街の人達言ってたんだよ。突然現れた駄菓子屋ってさ。」

「突然現れるわけないだろもしそんな事ありえるなら引っ越し業者が食いっぱぐれんだろ。」

ユウタにきょとんとされる前に
「仕事がなくなっちまうって事な」と付け加えると、
里衣子はアイスの最後の一口を噛み砕いた


「えーでもさぁ誰も引っ越しとかも見てないって噂になってたもん」

ユウタがそう口を尖らせると「そうよね」とミキが頷いた

「引っ越しはな、夜に静かにやったんだよ。勝手に棚が動くだなんてどこの幽霊商店だよ」

呆れたように腕を組む里衣子にユウタが「ここ。」と返すと
里衣子は「あぁ」と言うように眉を寄せた


「うちは勝手に棚が動いたりしないよ。」

人聞きが悪い。という顔で頬杖をつく兎崎がため息をついた

「そーだな棚が動くくらいなら可愛いもんだよ」

そうからかうように笑う里衣子の横でミキが兎崎の方へ顔を向ける

「ねぇなんで夜に引っ越ししたのよ?"ひゃっきやこうよろしく"じゃないなら別に昼でもいいじゃない」


「そうだね別に昼でも夜でもいいんだけど、里衣子に店に必要な物の移動の手伝い頼んだら昼は絶対やだって言い張るから…」

仕方なく夜にしたんだよね。と言いながら兎崎は不機嫌そうに里衣子を見た


「昼に引っ越しなんかしてみろよ!?
あら引っ越しですか?何屋さん?
どうも、駄菓子屋なんですー。
あら引っ越しですか?何屋さん?
どうも、駄菓子屋なんですー。
……って会話何回すりゃいいと思ってんだよそれが面倒だから夜にしたんだよ」


ジェスチャーを交えながらそう言う里衣子に「近所付き合い悪…」とミキが呟くと
「悪かったな」と里衣子が呟き返した


「なーんだぁ。俺、駄菓子屋突然現れたんだと思ってたのに…。なんかがっかり」

はぁ、と大きくため息をつきながら机に伏せるユウタを見ると里衣子は口を大きく開けて笑い、

「よかったじゃんかよ、ちびっこお前恐がりなんだからいつ動き出すかわかんねぇ棚に囲まれてるなんてやだろ!?」

とユウタの背中を叩いた


確かにそれは嫌だけど、なんとなくこの駄菓子屋は
「引っ越し」より「突然現れた」であってほしかったと思いながら
ユウタはもう一度大きくため息をついた


―その2おわり―



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