それから一ヶ月、半年と時間がたつにつれ段々と駄菓子屋の前で里衣子や坊主に会う事も少なくなり

いつの間にか駄菓子屋の看板は取り外され、カーテンで中が見えなくなっていた

その日を堺にミキ達も駄菓子屋を覗く事はしなくなった


それでも毎日駄菓子屋を見詰めながら商店街を通っていた二人も小学校を卒業し、

十数年が経った


カナとタクヤは県外へ出て行き暫く顔も合わせていない

ユウタも結婚し、連絡こそとっていないが元気らしい

この町の近くで暮らすミキにも5つになる息子がいる

実家を訪れたついでに久しぶりに息子と共に商店街へ足を運ぶ

相変わらずこの町でお坊さんをしている坊主の話しだと
たまにスーパーですこしだけ大人らしい雰囲気になった里衣子をみかけるらしい


当時やっていた店の中にはシャッターを閉じてしまっている所や店が入れ替わってしまっている所もあるが
里衣子と坊主と夏の日に駆け込んだ喫茶店は未だに当時のまま営業を続けていた

懐かしくなり当時の事を思いだし思わず笑みをこぼすと
そういえば駄菓子屋のあった場所はどうなっているのだろうかと
駄菓子屋のある通りへ足をむけた

橙色に包まれた夕暮れ時


学校帰りの子供達が大きなランドセルを背中で揺らしながらはしゃぎ通り過ぎていく寂れた小さな商店街

商店のおばさんが子供達にお帰りと声をかけると
元気な声がいくつも重なり返ってくる


相変わらず八百屋や肉屋で顔を合わせた主婦が噂話しに花を咲かせ何十分と地面に足を貼りつかせている



何年ぶりだろうか


懐かしい日を思い出しながら息子の手を引き歩いた


「音楽室の幽霊見に行こうぜ!!」
「俺いっちばーん!!」


そうはしゃぐ子供達を見ていると、あの頃の自分達を思い出す


と、その向こう

駄菓子屋の建物がまだ取り壊されず残っている事に気付いた


ユウタと何度も跳ね飛ばす様に開けた硝子戸は、
あの日々を鮮明に思い出させた

子供の頃大きく感じた硝子戸は、今見ると小さく感じた


よくここから中を覗いたっけ…


そう思いながらそっと硝子戸の向こうを覗き込む

カーテンの隙間から見える店内は埃で白くなっていたがどうやらあの日のままのようだ


と、鍵が開いていたのか息子が硝子戸を開け店内へ入っていってしまった

叱ろうと息を吸ったとき、何かに怯え戻って来た息子がミキに飛び付く

中を確かめようと恐る恐るカーテンを開いていく



あの日のままの棚
あの日のままの床

里衣子がのぞいていた冷凍庫
ユウタと座ったソファー
懐かしいレジ台


その向こう


見覚えのある
あの日のままのあの姿―――



「 い ら っ しゃ い 。 」



―完―



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