何か考えるように懐中時計を見詰め
時間が進むのを見詰める兎崎が視線をあげた先に、戻ってきた政剛が再び現れた

政剛は2人を見るとまだいたのかと言うよう眉をつり上げる


「何をさがしているの?」

兎崎の言葉に政剛は黙ったまましばらく2人を見下ろすとやがてその視線を懐中時計へ向け口を開いた

「人をさがしてる。どこかさ迷ってやしないかと思って…」

政剛の言葉に兎崎が眉をよせる

「もしそうなら、俺がしっかり上へ連れてってやんないと…っ」

そう言うと政剛は大きく肩を揺らし、兎崎は徐々に瞳を見開いていく

「全部俺のせいだ――…っ」

それを聞いた瞬間大きく開いた瞳の上の眉を寄せると兎崎は席を立ち部屋を出た

「おい何処行くんだよ!」

慌て兎崎を追う里衣子は調度玄関に入ってきた女性に明日また来る事を伝えるととっくに外へ出た兎崎を追いかけた

「おい!おいって!兎崎!」

やっと追い付くと里衣子は「何してんだよ!」と兎崎の前へ立った

「せっかくあいつなんか話しそうだったのによ」

ため息をつき眉をまげると里衣子は悩むような難しい顔で遠くを見詰める兎崎を見上げる


「違う。何が違うかわからない、けど…」

「なんだよ?」

「僕が知ってる事と何かが違う。何だろうもしかしたら、僕が知ってる事が違うのかもしれない。政剛はどうして……」


"ドウシテ泣イテイルノ"




駄菓子屋へ戻ると一足早くついていた坊主達が店の前からまだ駄菓子屋より離れた所を歩く兎崎達へ手を振った

兎崎から鍵をうけとった里衣子が硝子戸に駆け寄るのと入れ違いでミキ達が兎崎の方へ駆け寄り、
日記を見付けた事や他にも蔵で見かけた物珍しいものの事を一斉に口にした

それはすごいねと笑うと兎崎は囲まれながら少しずつ歩いた

そのむこうで鍵を開ける里衣子が「へー日記が見つかったんかよ」と感心したよう丸くした目で坊主を見た

まだ問題の日のものは見つかってないんですがねと眉をさげると坊主は「そっちはどうでした?」と鍵を回す里衣子を見た

「こっちは問題発生」

そう硝子戸を開けると里衣子は店内の電気をつけた

「政剛はなんでか話したがらないしハナから機嫌悪いしおまけに兎崎のやつは取り乱して家飛び出しちまうし」

散々だったねと腰に手をあてため息をつくと里衣子はそうだそうだと冷凍庫へ走った

「何かわかった事は?」

と坊主がご機嫌にアイスを選ぶ里衣子に聞くと
取り出したアイスで兎崎の方をさしながら
「政剛はなんでか由太郎の事さがしてんだよ。いよいよ日記が必要になるかもな」
と里衣子は眉をあげた

やがてミキ達と共に店内へ入ると兎崎は通りすぎざま里衣子の前に手を出した

はいはいわかってますよとアイスをくわえた口でもごもごと言い
里衣子はポケットを漁ると掴んだ小銭を出された手の上に乗せたが
兎崎は目を丸くすると眉をさげ笑った

「そうじゃなくて、鍵だよ」

「へ!?」という顔で里衣子は出されたままの手の小銭の横に鍵を乗せると
かわりに兎崎は里衣子の手に先程の小銭を乗せレジ台の方へ進んだ

「おいなんだよ珍しいな気持ちわりぃ」


眉を寄せる里衣子に
「アイスの在庫整理」とだけ答えると兎崎は疲れたように椅子にもたれた


翌日も午前中から駄菓子屋へ集まると
ミキ達はレジ台の周りに寄り
「兎崎待っててね日記みつけてくるから!」
と兎崎に手を振ると坊主の手をひいた

レジ台からその様子を見詰める兎崎と振り子時計を見ると里衣子は「おい」と兎崎に声をかけた

あと40分後には時計の針が11時17分をさす

女性の家まで車で飛ばしてぎりぎりの時間だ

「間に合わないぞ」

何か考えているのか、わからない部分を知るのを躊躇っているのかそれともただ行く気になれないだけなのか

外を見詰める兎崎はやっと「わかってるよ」と重い腰を上げた


案の定、女性の家の近くへ車を止めたときにはすでに11時17分を回っていた

ほらみろと荒く止めた車の運転席から飛び降りると里衣子は調度女性の家からでていく政剛の姿を見付け
助手席から外へと立ち上がる兎崎をみた

「永坂さん!」

ドアを閉めると兎崎はそう政剛に声をかけ、振り向き足を止める政剛のもとまで歩いた


相変わらす政剛はほっといてくれないかという表情を向けているが構わず兎崎は声をかける

「今日もさがしもの?」

「そうだ。あんたに話してなんになる」

兎崎は暫く考えるように政剛を見詰めた
その目はどこか懐かしいものを見ているように悲しげにも見えたが実際の所何を思っていたのかはわからない

やがて息を吸い込むと兎崎は口を開いた

「昔の新聞を見た事がある。明治のね。その中にこんな記事があった"永坂家の殺人事件、犯人は永坂政剛"」

兎崎はそう言うと徐々に声へ怒気を込め
「あなたの事でしょ」と政剛に険しく怒りの込められた瞳をむけた

その言葉に目を見開くと政剛は勢いよく兎崎の方へ同じく険しい瞳をむけた

「違う!!」




「お坊さんあった!!」

昨日に引き続きブルーシートの上に広げられた日記を真剣な眼差しで見て行く中
美希が真っ黒な手で一冊の日記をあげた

坊主は急いで駆け寄りその一冊を手にすると
慌てる気持ちをおさえ、丁寧に古ぼけたページを開いていく


そしてついにその日付が見えた

"十一月二十七日"

坊主はミキと顔を合わせると頷き続きに視線を落とした


十一月二十七日、雪

今日は仕事が早く終わりそうだ
由太郎があんな状態だから家が心配だ
色々と辛い思いが重なったうえあいつは身分の違いを気にしすぎているのもあり自分だけ違う扱いをされていると思っているらしい


坊主は出だしの文を見て早速首を傾げた

「思ってるらしいって…そうだったんじゃないの?」

ミキがどういう事なのと眉を寄せ坊主を見上げると
「何だかややこしそうだなぁ…」と坊主は難しい顔をし続きを読む


家に帰ると由太郎はまた暗い部屋にいた
身分の違いなんか気にしなくていいしここにはちゃんと居場所があるんだと何とか話しをしようと部屋をあけるが何処かへ行ってしまう

"他人"と一緒にいるのが辛いのか…
せめて顔だけでも出してほしいと母さんもいつも心配そうな顔をしていた



義理母の心配そうな顔

里衣子から聞いた兎崎の話にはなかった事だ

勿論里衣子の話は"兎崎が見た事"を話したものなので知らなくても当然ではあるがやはり何処か違う様だ

坊主はうーんと更に眉を寄せるとページをめくった


だから由太郎に夕食の時間には一緒にすごせる様にと俺の時計をひとつ渡した

あいつが時間がわからなくて夕食に顔を出さないわけじゃないのはわかっているが
"いていいんだ"という意味もこめて渡した

夕食時、今日も由太郎は来なかった

家族だと思ってもらえないのかと、母さんは肩を震わせていた

心配になり探しに行くとあいつは雪の中で道行く人を眺めていた

消えてしまいそうな哀しい顔をしていたのが忘れられない

俺もあいつも菓子ではしゃぐような歳じゃないが少しでも元気が出ればと菓子屋に一緒に行った

あの菓子屋には兎がいるから一度行ってみたいと思っていたのもあるが…

僅かに笑ってくれたが帰りにはあいつから「義理弟」という言葉が出てしまった

家族も俺もそんな風には思ってない

あいつが十年ほど前家に預けられた時は弟が出来て嬉しかったがあいつにはそう見えてしまうのだろうか…


家に帰り、心配していた母さんが由太郎に何処へ行ってしまったのかと思ったとそう言ったときのあいつの攻撃的な言葉を言われた様な顔をみて初めて気付いた

恐らくあいつは身内の死が立て続けに訪れ頼れる者もなく慣れない生活の中一人でいる間に心を病み

更に慣れない家での孤独感と気にしすぎた身分の違いで自分を追い込み心がボロボロになる内に
相手の言葉が攻撃的に聞こえる様になってしまっているのだと



「お坊さんこれ…っ!」

「里衣子さんの話しの中で感じたズレはこれだ…っ! 確かに里衣子さんの話は"兎崎さんが聞こえた風に話された物"だから間違いではないが完璧な事実でもないんだ!これは日記と合わせていかないと事実がわからないなぁ…」





「――――違う?」

険しい表情を緩める事なく政剛を見ていた兎崎の瞳が微かに動揺するよう揺れる

一体何が違うというのか
あれだけ真っ赤に染まっておいて

「何が違うのか僕にはわからないけどあなたは―――」

「違う聞け!!あの時も誰も聞いちゃくれなかったが違う!俺には弟がいて…」

政剛がそう言いかけたとき今度は兎崎が「違う」と口にし政剛を見た

「いたのは"義理弟"でしょう」


その言葉に目を見開くと政剛はゆっくりと顔をあげ揺れる瞳で兎崎をみた

「―――由太郎、か?」




高く登り照りつける太陽の眩しさに目を細めながら坊主は次のページをめくる


十一月二十八日、雪

今日はすごい雪だった
あいつはいつも皆が目を覚ます前に雪掻きをしてくれていた

それもまた昨日気付いた理由から、
家族に何か言われる前にと、
どうにか自分の居場所をつくるためにとの事だろうか

今日は俺も雪掻きをした

少しずつでも笑顔が戻る様にと今日はあいつと牛鍋屋に行こうと昨日寝る前に思い、誘おうと思ったってのもあった

一年後に秩禄処分があるという話を耳にした母さんは更に頭を抱えていたし

その環境はあいつにも良くないってのも勿論あったが…

昨日気付いた事が確かだとは言えない

だから確かめる為あいつに差し障りない言葉で聞いてみた

母さんが昨日俺達が帰ったときにかけた言葉は由太郎にはきついものに聞こえているのだろうから

俺が連れ回したせいで母さんに"声をあげられた"話しを聞いてみた

するとやはりそうだった

あいつ自身もどうにかしなければと思っているみたいだが、それが余計にあいつを苦しめているのかもしれない

家につくといつもの母さんの迎えはなかった

由太郎に気をつかってくれたのだろうが、その母さんも疲れきっていた

由太郎も母さんも心配だ

こんな所に書いても仕方ないが、どうにかしたいのに俺には方法も見付からない

珍しく雪掻きなんかしたせいか今日は体が熱っぽく怠い
風呂に入ろうと思ったがやはりやめる事にした

そして良かったのか悪いのか、調度母さんと妹の話を耳にした



そこまで読むとミキが今読んだところを指でさし
「この耳にした話しって、養ってく余裕なんかないから事件か何かに見せ掛けて…てやつよね?」

と坊主を見た



追い詰められた母から出た言葉は由太郎の耳には絶対にいれたくないものだった

母さんは由太郎を嫌になってしまったのだろうか

それよりその会話をあいつが聞いていない事を祈った

明日にでもあいつが自分でいれる様な所に家を探しに行こう

それが一番いいのかもしれない


「政剛さんあの時お風呂やめたからお母さん達の話し聞いてたんだね…
それを兎崎は知らないから政剛さんが知るはずのない話しを知ってるのは自分を消す為に騙してるんだと思ったんだ」


美希がそう言いながら里衣子の話を思い出す




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