里衣子の家から帰るとミキはタクヤとカナに声をかけユウタの家へ向かった


「…ていうのが兎崎の目的ってわけ!」

まだ鼻声ではあるがすっかり元気になったユウタの部屋で昨日里衣子から聞いた話しをするミキを3人は不思議そうに見つめる

「なによ?」

「すっげークマ」

うわぁと言う顔でじろじろ見るユウタを小突くとミキは
「あんたのせいで昨日は色々あったのよ!」
と眉をつりあげた

勿論寝不足なのはユウタのせいではないが色々あったのは確かだ

「でも兎崎さんそうだったんだねぇ」

カナが眉をさげそう言うと隣でタクヤも黙って何度か頷いた

「そこでよ!」

ミキはいつものように目を輝かせると3人に顔を近づけた

また何か思い付いたのかとユウタだけ少し後ろに顔をよける

「私達探偵団の最後の仕事よ!みんなで兎崎の手掛かりをさがしてあげるの!」

ミキの提案に旧校舎や猫の件でお世話になったタクヤとカナはすぐ賛成したが
ユウタはまたミキはそういうこと言い出して…と言ったように眉をまげた

「あのね、あんたがとんでもない怖がりなのは知ってるけどあんただって兎崎にはお世話になったでしょ!」

「そうじゃなくて!」

怖いと思ったのも確かだがそうじゃなくてともごもご言うユウタに「いいから!」と言うとミキは立ち上がり早速駄菓子屋へ向かった


相変わらず焼き付けるように暑い商店街を4人が歩いていると
バタバタと慌て走る足音が後ろから近づきやがて4人を少し通り過ぎた所でその足を止めた

だらだらと額から汗を流し濃いクマのある焦った顔で振り向いたのは里衣子だった

「やばいぞ!二度寝したら寝過ごした!」

まずいまずいとその場で足踏みする里衣子の手には駄菓子屋の鍵が握られていた

やがて駄菓子屋に着くと硝子戸の前でしゃがむ兎崎がちらりと不機嫌そうな目を汗だくな里衣子へ向けた

「ゔっ!」と眉をまげ後退りする里衣子に「鍵。」と呆れたように兎崎が言うと
里衣子は慌て鍵をさし硝子戸をあけた

立ち上がり硝子戸を通り過ぎる兎崎の手に鍵を乗せると里衣子は胸を撫で下ろすように息を吐いた

「なんだよいつもより開ける時間早くないか?」

額の汗をぬぐい腕時計を見ると里衣子は「開けないときだってあるくせによ」と付け加え冷凍庫の前まで歩くと
そのフタをあけ顔を突っ込みついでにアイスをひとつ取り出した

「何時になるのかわからないけど今日は一件依頼たのまれてるんだよ。」

そう兎崎が引き出しに鍵をしまうと「手伝います!」と張り切りミキ達がレジ台の前に駆け寄った

兎崎は一体何だと言うように思いきり眉を寄せると
「りーこ!」と冷凍庫の前でアイスの袋をあける背中に声をあげた

ギクッと肩をあげると里衣子は
「冷凍庫に顔突っ込んだ事かアイス開けた事かそれとも他の何かかかよ!」と声をあげられた理由を兎崎に聞く

「全部だけどりーこ何か話したでしょ?…てか何そのクマ?」

なんだよと目を丸くする里衣子に呆れた顔をすると兎崎は同じように目の下にクマのできたミキを見て眉をあげた

「話すも何もそこの小さな探偵さんに全部筒抜けだったからちゃんと説明しなおしただけだよ!」

そう言うと里衣子はレジ台の前を通り過ぎながらミキを指差し「手伝えって言ったけどもっとうまくやれって!」と小声で目を細めるとソファーに腰を落とした

小さな探偵という言葉に目を丸くすると兎崎は
そういえば旧校舎へ行く前にユウタが不思議な行動をしていたなと思いだし
成る程というように笑った

ミキは里衣子から離した視線を兎崎にむけるとレジ台に飛び付いた
「だから兎崎、手伝う事あったら言って!」

兎崎は眉をさげ笑うと椅子を引き「そうだね、ありがとう」と言いながら腰を降ろした

が、まだ目を輝かせたまレジ台を掴みこちらを見ているミキを見ると兎崎は「えぇと…」とさがすように辺りを見回し
「今はないかな」と困ったように眉をさげた

「なーんだ」と言うとミキもソファーへ座りあくびをした

「手伝ってくれるのは嬉しいんだけどみんなやる事あるんじゃない?例えば、宿題とか」

兎崎の言葉にカナ以外の3人が顔をひきつらせた

やっぱりというように兎崎が眉を下げるとオリジナルの効果音を口にしながらユウタがカバンから机へ宿題一式を乗せた

「俺宿題持ってきたし」

自慢気にユウタが言うと
「ぶつぶつ言ってたくせに宿題まで持ってきてんじゃないのよ」と長居する気満々のユウタにミキが目を細めた

へー懐かしいなと言いながら手を出す里衣子にユウタが夏休みの宿題帳を渡すと
里衣子はそれをぺらぺらとめくった

「りーこ見てもわかんないくせに」

頬杖をつきぼそりと言う兎崎に
このくらいならわかるわと言うと
里衣子は「だいたい最後に日記がたまってて困んだよな」と笑った

そして「あ!」というと勢いよく宿題帳を閉じ「それだよ!」と兎崎の方を見た

「日記だよ日記!政剛の日記!もしかしたら書いてたかもしんないし残ってるかもしんないだろ!?」

レジ台に頬杖をつき眉をあげる兎崎に背を向けると里衣子は硝子戸の方へ走り、同時に硝子戸をあけ入ってきた坊主に激突した

「いってぇ!」

鼻を押さえ里衣子がそう言うと坊主も腕を押さえ驚いたように里衣子を見た

「痛いのはこっちですよどうしたんですか慌てて」

坊主は店内を見ると、珍しく皆さんまで揃ってと続けた

「坊さん日記だよ日記!」

坊主の服を掴み揺さぶる里衣子に「日記?私のですか?」と坊主は目を丸くし、
書いてますけどお見せ出来るようなものじゃと照れ臭そうに頭をかくとすぐに否定する里衣子の声が飛んできた

「あんたのなわけないだろ!?政剛のだよ!」

ああ政剛さんのですかと眉をさげる坊主をレジ台から見ていた兎崎が
「りーこっておしゃべりだよね」
と呆れたように呟くとミキが困ったように笑った

「無理だよりーこ、永坂の家は場所が変わってるからわからない。」

レジ台からの声に振り向くと里衣子は「坊さんにぶつかる前に言えよな!」とソファーへ戻った

坊主は店内へ入ると「見た事あるやつかもしれないですが」とレジ台の上にどさりと紙袋を置いた

中身は明治の新聞だ

それを見るとミキ達が駆け寄り各々新聞を手にするとソファーへ腰掛けめくり出した

「いいか、この漢字みつけたら教えんだぞ?」
と里衣子がペンを取り出しレシートの裏に永坂政剛と宇崎由太郎の文字を書き見せた

兎崎は坊主に礼を言うと
いいえと笑う坊主の目の下のクマに首を傾げた


しばらく新聞をめくる音だけが続いていた店内に「あった!」とタクヤが声をあげ広げられた新聞に皆が視線を落とす

ソファーの背もたれに首を放り出して堂々と寝息をたてていた里衣子もその声に首をあげると「なんだ!?」と辺りを見回し
あたかもずっと起きてましたというように皆がみるそれに視線を落とした

"犯人と思われるのは永坂政剛という男で―――"

「血のついたままの着物で町を歩いている所を目撃されている、だって」

ミキが声に出し記事を読むと頷く兎崎をみた

残念なことに坊主が持ってきた新聞の中には事件について書かれた記事はそのひとつだけだった

「はぁ」と一斉にため息をつくと背もたれに背中を放り出す

「決めた。昼寝しようぜ?」

と天井を見つめたまま里衣子が脱力した声で提案すると
「寝てたでしょ」とミキが眉を寄せる

レジ台の向こうでギィと鈍い音をたて背もたれに深くよりかかると
「もうだいぶさがしてるけどこんだけないって事はそれ以外は事件の事は記事になってなくて、政剛ももういないのかもしれない。」

と呟くと兎崎は
「みんな協力してもらっといてあれだけど、そろそろ区切りつけて探すの諦めようかとも思ってたんだ」

と天井を眺めたまま続けた

「じゃあお前なんもわかんないまま未練残してどうすんだよ!?」

里衣子が「上にあがれないぞぉ」とからかうように言うと兎崎は天井を見たままレジ台から坊主を指差した

坊主は「い!?」という顔をすると「私が兎崎さんに経をあげるんですか!?」と慌てた

「新しい数珠用意しとけよ」と言うと里衣子は「よっ」と体を起こし冷凍庫へ向かった

やがて人数分のアイスを持ち戻ると里衣子は皆の前にそれを差し出した

なんだか浮かない顔でそれを受けとるユウタを見るとミキが「あんたまたそういう顔してる」と小声でつついた

「そうじゃないってば」とミキの手を払うとユウタはアイスを見詰めた

と、遠慮がちな音をたて硝子戸があけられ兎崎はもたれたまま天井にむけられていた顔を硝子戸の方へ倒す

「あのー、すみません昨日声かけた者なんですが…」

開けられた硝子戸から顔を覗かせ中を伺うのは
兎崎の懐中時計を拾い、昨日木箱を渡し損ねた女性だった




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