四方を静かな山に囲まれた夜の学校の校庭は静まり返り、その向こうに青白い校舎が不気味に浮かび上がる

いくつも並ぶ窓硝子は塗り潰されたかの様に真っ黒で、校舎に張り付けられた大きな時計は普段子供達が目にする事のない夜の時間をさし、
まるで別の世界を見ている気がした

校庭の砂を踏み締めゆっくり進む兎崎の下駄の音が響く

月もなく風もない

兎崎は辺りをぐるりと見回した


ざわざわと声がする方へ向かうと青白い校舎の向かって左側の校庭の端に暗く佇む小さな木造の旧校舎の入り口をミキとカナと数人が囲んでいた

中からはドアを叩くタクヤが声を枯らし叫んでいた



「――兎崎!遅いよ何やってたの!!」

ミキが遅れて来た兎崎達に駆け寄る

「ごめんね。その子を閉じ込めてる原因を探したんだけどどうやら一緒に中にいるみたいだ」


兎崎の言葉にタクヤは更に慌て扉をこれでもかと叩き

やっとの事兎崎に追い付いたユウタは早速嫌な事を聞いてしまったと肩を強張らせた


「兎崎さんあんまり脅かしちゃ可哀想ですよ…」

表情ひとつ変えずしれっと言った兎崎に坊主が「シーッ」と人差し指をたて言った

不機嫌な表情のまま返事をするかわりに一度軽く眉をあげる兎崎をみると坊主は子供達を見回した

「誰かなんで閉じ込められたのか知ってるかい?」


子供達は一斉に旧校舎の噂をばらばらに口にした

旧校舎の池に昔ペンダントを落とした子が未だにそれを探して校舎をさ迷っている
だからペンダントのある池に近づくとそれをとられたくないからかその子に池に落とされ溺れる
そのこは校舎の色々な所をさ迷っていて
ハートのペンダントを持ってると遭遇するが「1、2、3…」と数えると消える

というものだがどうやらこの話しは遭遇したのが男の子のパターンのようだ

遭遇したのが女の子だとペンダントを渡さないと夢に出るというものらしい


私が僕がと他の子が話しているのなどお構い無しに子供達が話す話しの中には
昔旧校舎で飼われていたうさぎの霊が凶暴化したというものや、
放置されたままの粘土細工が動きだすというものもあったがどうやら関係なさそうだ


騒ぐみんなを「静かに!」と一喝するミキの話しによると
閉じ込められたタクヤが遭遇したのは男の子で、
噂通り数を数えたら男の子は消えたが旧校舎を出ようとしたところですべてのドアが閉まり閉じ込められてしまったらしい

委員会の集まりが終りミキが校庭を後にしようとしたときにはすでにタクヤは閉じ込められていて
その友達が開かない扉に入り口で項垂れているところだったようだ


ミキの話しを聞くと兎崎は暫く考え「この話しってさ」と口を開いた

「この話しって、最初の部分おかしくない?旧校舎の池にペンダントを落としたってわかってるこがどうしてそれを探して池じゃなくて校舎をさ迷ってるの?」


兎崎の言葉に確かにと坊主と子供達が顔を合わせた


「これってたぶん二つの話しがひとつになっちゃってるんじゃない?ペンダントを落としたこと、さ迷ってるこは別。だから男の子のパターンと女の子のパターンがあって対処方も違う。」

「つまり二人いるって事かよ…」

不安そうな顔でユウタが言うと子供達が悲鳴混じりにざわつき兎崎は「そ。」と笑顔で答えた


「しぃっ!そういえば今朝タクヤ言ってたわよね、実際にあった話しだって。ほら、ペンダントに関しての事件があったって!」

ミキがそういうと坊主は携帯をだしその事件について検索を始めた

兎崎は「さて」というとタクヤがずっと叩いてる扉の前まで歩いた


「静かに!今そこに例のこはいる?」

「いねぇよ誰か知らねぇけど早くあけろよ!」

中からそう声をあげるタクヤに兎崎は明らかに不機嫌な顔をすると扉から離れ旧校舎の窓ガラスの向こうを見回した

さ迷ってる何かも人影も見当たらない


「ペンダントの女の子が噂のこなのはわかるけど、タクヤを閉じ込めてる男の子は何者なんだよ?」

ユウタの問いかけに辺りを見回したまま「さぁ」とだけ答えると兎崎はあまりに静かな旧校舎に首を傾げた

勿論相変わらずタクヤは騒いでいるが、それ以外がタクヤを閉じ込めるだけ閉じ込めておいて何もなくとにかく静かだった


左を向けば例の池も見えるがそこも静かで何もいない

とそのとき坊主が「ありましたありました!」と言いながら兎崎に携帯を渡した

兎崎は画面をみると
「殺人事件?」と呟いた

その言葉に子供達は再びざわつき「あ、」という顔をすると兎崎は「ごめんね」と眉をさげた

まだ旧校舎が使われていた昔に哀しい事に殺人事件が起きたらしい

事件に巻き込まれたのは女の子で
事件が起きたのがあの池の横だ

そのときに女の子が落としてしまったのが噂のペンダントのようだった

旧校舎の噂の女の子の部分はわかったが男の子の部分はわからないままだ

更にペンダントを持ってると男の子に遭遇するパターンもあるから余計にだ

それに別の話しのはずなのにペンダントの部分が何故か共通している

おまけにあれだけ噂になってる男の子と女の子のどちらもどこにもいない

「困ったね…」

はぁ、と溜め息をつく兎崎に
「轢き逃げ犯のときみたいに男の子に話しかけられないの?」
とミキが不安げに訪ねる

「それが何故か姿が見当たらない。気配も殆どしない。こんだけうまく姿を―――」


そう言いかけると兎崎はハッとしたように扉に手を置き
その向こうを見つめるように前を見ると


「もーいいかい」

と口にした

すると男の子と女の子の声で「もういいよ」と聞こえ叩きつけるようなものすごい衝撃音と共に
中からの圧力に弾き飛ばされたかのように入り口の扉がすべて開いた

同時に中から泣き腫らしたタクヤが転がるように飛び出してきた

子供達は突然の事に叫びながら坊主の後ろへ隠れるとタクヤが出てきたのを確認したがそれどころではない

慌て逃げるように叫びながら走り去ろうとするタクヤの手を兎崎が掴む

「離せよ!誰だよふざけんなよ!」

喚き暴れるタクヤの前に腰に手をあて歩くとミキは

「言ったでしょ!この人が駄菓子屋の店主さんよ!」
とどこか自慢気に言った

ミキの言葉にタクヤは兎崎を見上げると怯えるように縮こまった

風貌もそうだが何より兎崎は今不機嫌だ
子供にとって怒っている大人は怖いものだ


「まだ終わってないし君が始めた事だ。」


刺すような目付きで見下ろす兎崎に小さく「はい」とだけいうとタクヤは涙を拭いた


「さ、隠れんぼだ。」


「ちょっと兎崎!何言ってんのそんな事やらないわよ!」

振り向き突然そう口にした兎崎を止めるようにミキが全力でそう言うと
坊主を含めた全員がミキの意見に激しく賛成した

「タクヤ君も出れましたしもういいでしょう?」

早く帰りましょうと促す坊主に
勝手だねと呆れたように呟くと兎崎は続けた

「やるんだよ。今は勝手に人様の所へ足を踏み入れた彼が荒らし放題荒らしたまま出て来ただけだ。何も解決してない。きっとまた誰かが閉じ込められる」


兎崎の言葉にミキは不安げに黙り込んだ

タクヤも責任を感じ下を向いたままだ


「男の子が数を数えると消えるのは隠れたからだ。理由はわからないけど男の子はかくれんぼをしていて鬼はこちら。君は数を数えたのに帰ろうとしたから閉じ込められた。」


先程扉が開いたとき人知れず尻餅をついていたユウタは兎崎の言葉に大袈裟なほど不安な表情をすると頭を抱えた


「大丈夫だよ。別に全員がやる必要はない鬼だけで充分。鬼は数を数えた君、それと僕だ」


暫く悩んだがタクヤは俯いたまま兎崎の言葉に頷くと入り口に進む兎崎に続いた


「もし何かあったら、その…」

タクヤが前を行く兎崎の背中に俯いたまま呟いた

何かあったら助けてもらえるかと聞きたかったが
自分のせいでこんな事になってしまっているのだからそれ以上は口に出来なかった

それでも不安なものは仕方ない


兎崎は一度だけ振り向くとまた前を向き歩きだし「いいよ。大丈夫。」と一言だけ返した




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