小説 | ナノ
「……たまんねぇな」

 まるで彫刻のように整った顔をだらしなく緩ませた松ノ木 梅(まつのき うめ)は、それを隠すようにして手のひらで顔を覆った。
 普段は唯我独尊という言葉が誰よりもあてはまり、常に勝ち誇った余裕の表情をしている彼がこれほどまでに参るわけは、彼の視線の先にある。

「……ん」

 ちょうどベッドに横たわっていたそれは身動ぎをする。もぞもぞと動く姿をじっと見つめながらも息を殺して、となんとも器用に梅はそれを観察する。そして、それが起きないと確認するとポケットからスマートフォンを取り出してプロのカメラマン並みの手付きで撮影を始めた。
 改良をくわえたために、シャッター音は出ず、読み込みもはやい。しかし、いかんせん撮影する枚数が異常なものだからすぐにメモリがきれてしまう。

「チッ……」

 思わず、舌打ちをして新しいSDカードをポケットから探し出そうと下を向いたときだった。ふらり、と梅に暗い影がかかったと思いきや、ばふん! と音と共に頭に衝撃が走ったのだ。
 ばっ、と梅が顔をあげるとそこにはだぼだぼのシャツの裾をきゅっと握り締めながらも、枕をもつ腕を今にも振りおろそうとする浜松 海(はままつ かい)がいた。ずもも、という効果音がつきそうなほど不機嫌な海だったが、梅はシャツから覗くスラリとした足元に目がいっていた。

「……見せ」
「ねぇよ! クズ!!」

 シャツを捲ろうと襲いかかった梅だったが、かなりの力で枕を顔にたたき落とされる。その衝撃で梅は床とこんにちは状態になるが、まだ、手をわきわきとさせながら起き上がろうとする。

「かぁ〜い〜……」
「っ! ちょ、近寄んな!! きめぇ!」

 じりじりと歩み寄る梅に海は顔をひきつらせながら後退りをする。そして、とうとう部屋の隅に追い詰められてしまい脂汗を流した。

「やらしいな、海は……。こんな格好して俺を誘って……」
「いやいやいや、テメェが勝手に俺が寝てる間に着せたんだろうが!」

 海の弁解など右から左に受け流して、梅は海の足を膝小僧から股の付け根辺りまで撫で回す。ぞわぞわと皮膚がうめく感覚に、海はびくん、と震えた。

「やっ、め!」

 今にもペニスに触れようと迫りくる手のひらを防ぐため、海はシャツの裾を両手で引っ張るが、首もとに顔をうめられてくすぐるように舐められる。そのせいで力が抜けて、容易く侵入を許してしまった。

「あっ、ば、かうめぇ……!」
「こんなにしといて、よく言うな」

 そう言ってニヒルに笑う梅に流され、海は今日も梅に体をゆだねるのだった。





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