小説 | ナノ
「…ほんと、お前って見た目とのギャップが凄いよな」

酒を片手に呆れたように呟くディアスに国内一の騎士と名高いハヴェルは片眉を吊り上げた。

「何が」
「いや、そんな明らかに潔癖ですーっていう見た目しといてエロ魔神とか…」

ハヴェルは精悍な顔つきに濡れたように艶めく黒髪が禁欲的な雰囲気を醸し出している。しかし、ディアスの言う通りハヴェルは騎士団内では知らない者がいないと言うほど性豪で有名であった。
毎晩、その美貌を糧に自室に女を連れ込んではセックス。ひどい時には休日丸々使っているときもあるという。
そのせいで隣室の騎士達が騎士団長であるディアスに泣き付いてくる始末である。
今は仕方なくハヴェルの部屋を角部屋にあてて隣室にディアス、という処置をとっているがディアスは夜な夜な聞こえる嬌声は辛いものであると身を持って知った。

「エロ魔神?俺は他人よりも少し性欲が強いだけだ」
「少しって…」

憮然として言い放つハヴェルに語弊にもほどがあるとディアスは頭をかきむしった。

「せめて、相手を一人に定めるとか」

国内一の騎士がセックス狂だと国民、ましてや王にまで知れたとしたらどうなるか。考えただけで恐ろしい。
せめて一人に定めて恋人とでも公言すればとディアスはハヴェルに勧めるが。

「相手が保たん」

その一言でバッサリと断言された。
呑気に酒を飲むハヴェルが恨めしく、睨み付けてみるが効果はない。

痛む頭を抱え込んでディアスは考えた。
体力バカなハヴェルに見合う体力を持っていて、ハヴェルの性豪っぷりを口外することがなく従順。
そんな都合の良い奴はいるのだろうか。

カチカチ、と脳内パズルのピースをはめていくとある一つの道筋が覗いてきた。

「…あそこなら」
「は?」
「ちょっと出かけてくる!あ、明日は部屋で大人しくしとけよ!」

そう言うとディアスは慌ただしく支度をして部屋を飛び出していった。
それを怪訝に思いながらもハヴェルは再び酒を口に運んだのだった。



***

折角の休日なのに性欲を発散することができない。積もるイライラにハヴェルが舌打ちを鳴らしたときだった。

「お、ちゃんといるな」
「おい、一体――」

嬉々とした表情で部屋に入ってきたディアスは一人の少年を連れていた。
少年は薄汚れた衣服に乱雑に短く切られた黒髪でお世辞でも綺麗とはいえない格好でディアスに引きずられてハヴェルの近くまでやってきた。
近くで見てみると少年は凡庸な顔つきをしており泣きじゃくっている。

「なんだ、これは」
「何って、お前の枷だよ」
「枷?」

訝しげに視線をぶつけると、さも当たり前のようにディアスは答えた。
そして少年をハヴェルに押し付けてにっこりと笑った。

「これからは、この子を部屋に住ませること」
「何を言ってる」
「掃除でも洗濯でも大体のことは出来るらしいし。家政婦にでも」
「そういうことじゃない」

ハヴェルが怒りに任せて近くのイスを蹴りつけると少年は大きく震えたのに対してディアスはため息を一つ吐いただけで一拍置いてから話し出した。

「この子をね、お前の稚児にしようと思って」
「馬鹿か。こいつは男だぞ」
「分かってるよ」

そっちこそ馬鹿なんじゃない、と憎たらしい笑いを浮かべてディアスは言い切った。
その表情を見てハヴェルは眉間に皺を寄せる。

「わざとか」
「当たり前。お前は男色家じゃないし、女を連れ込もうとさすがに子どもの前で盛るような悪癖は持ってないだろうから」
「枷、か…」

改めて口に出すとしっくりくる言葉だった。




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