小説 | ナノ
 縋るように見つめられると、首を縦に振ってしまいそうで俺は咄嗟に顔を背ける。
 けれど名賀はそれを許さず、大きな手のひらで俺の顔を包み込み視線を合わせた。

「村田先生、お願いです……、俺を見て」
「や、だ……」

 真摯に見つめられると心臓が張り裂けそうなくらい高鳴って、耐えられなくなった俺は視線を外す。それでも、名賀の拘束はそのままで俺は逃げることが出来ず、少しもがいてみようと名賀の厚い胸板を押し返そうとした。
 けれど、直に触れることで驚くほど強く、そして早い名賀の鼓動を感じてしまい、驚きのあまり逸らしていた視線を戻してしまった。

「……分かりますか、本当に俺が村田先生を好きだってこと」
「っ」

 俺の頬に添えられていた名賀の手が、俺の手首を掴みグッと名賀の胸へと押しつけられた。
 ドクン、ドクン、と段々手のひらから伝わる心臓の音が早くなる。

「――村田先生は、俺のこと嫌い?」

 嫌い、なわけがない。
 それを知っているくせにわざと聞いてくる名賀は卑怯だ。けれど、そんなとこすら憎めないほど名賀への思いが胸の奥から離れない。

「…………嫌いな、わけないだろ……」
「っ」
「お前、ずるいんだよ。俺が断れないの分かってるくせに……」

 恨めしげに睨むが効果は無く、名賀は自分から仕掛けてきたくせに目を大きく見開いて固まっていた。
 生徒と教師だとか、男同士だとか体裁が悪いことがたくさんある。でも、俺がうだうだと悩むだけじゃ終わりは見えないし、俺と違って名賀は自分の気持ちをはっきりと示してくれるのだ。
 だから、俺もはっきりと気持ちを伝えないと。

「……俺も名賀のことが好きだ」

 固まっていた名賀は、俺がそう告げると同時にギュッと強く俺を抱き締めた。

「村田先生っ……」
「ん、む!」

 俺の唇に名賀の形の良い唇が重なる。勢いがあったせいでお互いの歯がガチンとぶつかったが、名賀はそんなことお構いなしにキスの雨を降らせる。ちゅ、ちゅ、と頬や額に唇が触れる度、そこから熱がうまれて頭がぼーっとする。思わず、名賀の背に手を回すとそのままゆっくりとソファに押し倒された。

「っは……ん」
「ちょ、な、がっ……! ここ学校っ……!」

 スルリと脇腹を撫でられる。慌てて止めようとするが、名賀は聞こえていないのか俺の首もとに何度もキスをしていた。
 その間も名賀の大きな手のひらは俺の体をまさぐっていて、止まることはない。

「駄目だって……!」

 抵抗したいが力が入らなくて、されるがままだ。
 気付けば、名賀の手のひらは直に肌をくすぐっていて、ひんやりとした空気が肌に触れる。少し寒くて、肩を竦めたときだった。

「村田先生、いらっしゃいますか?」

 コンコン、というノックの音と共にドア越しから声が聞こえてきたのだ。

「っいます! ちょ、ちょっと待って下さい!」

 慌てて名賀を押し退けて、服を正す。そして、名賀を扉からは見えない死角へと追いやり俺は急いで扉を開けた。

「す、すみません。お待たせして……」
「いや、構いませんよ。休憩でも取られてたんですか?」
「そ、そんなところです……」

 後ろめたくて、言葉が尻すぼみになったが目の前に立つ警備員である若田さんは気にすることなく笑った。

「お疲れのようですね。そろそろ、七時になりますしお帰りになられたらいかがですか?」
「え?」

 言われて、時計を確認すると太い針は七の数字をさしていた。まさか、こんな時間になってるとは思わず驚きを隠せない。
 どれだけ、俺は名賀に夢中だったのか。そう思うと恥ずかしくて暑くなった。

「体調でも、お悪いのですか? お顔が赤いような……」
「! ち、ちょっと風邪っぽいんですよ!」
「そうなんですか。でしたら、やはり早くお帰りになられた方が……」
「そ、そうですね! そうします!」
「気を付けてお帰り下さいね」
「あ、ありがとうございます。若田さんも見回りご苦労様です」

 そう言って軽く礼をすると若田さんは爽やかに笑いながら、他の場所の見回りにいった。
 その背中を見送ってから、部屋に戻れば窓の外が真っ暗なことに気付く。なんか恥ずかしくて鼻をかいていると、おずおずという感じで名賀が死角から出てきた。






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