小説 | ナノ
いわゆる王道学園とやらに入学して早一年。俺は歓喜に身を震わせていた。

「とうとう俺の時代がやってきたのか…!」

新しい部屋の表札を見て思わず叫んでしまったのは致し方ないことだ。何故なら俺の名前である佐倉 一(さくら はじめ)の下に爽やかイケメンで成績優秀、スポーツ万能な文武両道の真中 三郎(まなか さぶろう)の名前があったのだから!

「……やべぇ…!」

俺はニヤける顔を隠すことなく、喜びに浸る。傍から見れば、部屋の表札を見ながらニヤニヤしている俺は頭がおかしく見えるかもしれないが仕方のないことだった。だって俺、イケメン大好きなんだもん。

思い出せば物心ついたときからそうだった。初恋は幼稚園のとき、同じひまわり組だったケン君だ。ケン君はハーフでその端正な顔を一目見た瞬間、俺は雷にうたれたごとく衝撃を受けた。次の日から猛烈なアプローチを仕掛けたが、ケン君と違い俺は平凡な顔つきをしているし、第一性別が男だったのが原因なのだろう、友達としては仲良くなれたが恋愛関係にまで発展することは無かった。しかし、俺は新たなターゲット(もちろんイケメン)を見つけることで心の傷を癒す、そしてまた友達どまり、というループを繰り返しながら恋多き男として育ってきたのだ。
そんな根っからのゲイである俺を家族は優しく受け止めてくれ、姉ちゃんなんてイケメンが多いと有名なこの王道学園、改め聖蘭学園の推薦枠をとってきてくれた。私の持ってる権力すべてを使ってもぎ取ってきてあげたわよ!これで一はめくるめく王道BLの世界に…!と俺と似つかない超絶美人が言い放ったときは、思わず抱いて!と叫んでしまったのは良い思い出だ。
しかし、猛勉強の末、合格、そして入学を果たした俺に待ってたのは俺が予想打にしない展開だった。
何故なら、この学園では無闇にイケメンに近付くと制裁という名の暴力行為を親衛隊から被ってしまうのだ。俺は痛いのが大っ嫌いなんだ。実際あった事実を入学式後、担任がクラス全員に話したのだが俺はそれを聞いているだけでもゾッとした。だから、泣く泣く俺はアプローチを掛けることは諦めてイケメン鑑賞をすることに徹していた。

しかし、今年は同室者がイケメンなのだ。これは俺にとって最大の好機であるかもしれない。
同室同士なら嫌でも少しは関わりを持たなければいけない。だから親衛隊も同室者には幾分か注意を促すそうだが、比較的監視の目が甘く、室内で起きている事態なんて分かりっこしない。言うなれば、やりたい放題だ。

「ふふふ…」
「あの…」
「あ、すみませ…!!」

さて、どのようにアプローチを掛けていこうか。まぁ、無難にボディタッチを多めにして…とか考えていたら、通行の邪魔だったのか声を掛けられた。慌てて退こうとしたが相手の顔を見た瞬間俺は固まってしまった。

「まままま、まな…!」
「?…あ、もしかして佐倉君?」

柔らかそうな明るい茶色の髪に長い睫毛、高い鼻に薄い唇。そして、これから一年よろしくな、となんとも耳障りの良い声で告げられて俺は爆発するかと思った。けれども、さすがに何度もの恋路(片思い)を経験してきた俺だ。どう対処すれば良いかなんて目に見えてる。俺は咳払いをしてからなるべく爽やかな笑顔を浮かべた。

「ああ、こちらこそよろしく。真中君」
「…なんか佐倉君って良い奴そうだな」
「何?良いヤツそうって?俺は良いヤツそうじゃなくて良いヤツなの」
「はははっ!ごめん、ごめん!あ、君なんかつけなくても呼び捨てで良いよ」
「あ、じゃあ俺も佐倉って呼び捨てで全然良いから」
「じゃあ佐倉、改めてこれからよろしく」
「こちらこそよろしく、真中」

どうやら第一関門は突破したようだ。
やはりイケメン相手には気さくに話すのが良い印象をとれるという俺の経験と実績は嘘をつかなかった。本当にこれからが色々な意味で楽しみで仕方ない。




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