小説 | ナノ
「あー……、それはなぁ……」

 これはきちんと教えてやるべきなんだろうか。いや、でももう高二なんだからちょっとどころか多くの性知識を持っていてもおかしくないはず……、けれども今までの名賀の態度や言葉からすると全くの無知といっても良いんじゃないだろうか。絶対に友達とかと、一度はそういう類の話題になることがあると思うんだが名賀は無かったのか……。ってか今はそういうことを考えるんじゃなくて名賀にその、性知識を教えるか教えないかで……。だけど教師の俺より友達とかに……。
 そうやって俺がうだうだと悩み込んでいたら、名賀が俺の肩を叩いて申し訳なさそうに笑った。
 ……やっぱり、かっこいいな。

「……すみません、困らせてしまいましたね」
「……いや、名賀は悪くない」
「そんなことありません。俺が悪いんです……、だって俺、本当は分かっているんです」
「え」

 もしかして俺、からかわれていたのか?そんなことを思ってしまったがそれは杞憂に過ぎなかった。

「あの子達は……その、俺と……セックス……が、したかったんですよね」
「……多分、そうだ」
「……最初は意味が分かんなくって……、今まで仲良くしてたはずなのにいきなり迫られて……。俺っ、嘘だと思いたくて……っ!……だから冗談だろっていう、誰かの後押しが欲しかったんです」
「そっか……」
「……我ながら女々しいとは思うんですけど、柄にもなくなんか怖くて……」

 そりゃあ、今まで普通に仲良く接してきた相手から自分はその気もないのに無理矢理関係を持たされようとしたならショックも受けるだろう。さらに名賀の場合は、相手が複数だったのだからそのショックは倍に違いない。
 顔に影を落としながら話す名賀を俺は異様に抱き締めてやりたい気持ちにおそわれたが、話を遮るわけにもいかずグッと堪えて耳を傾けた。

「……村田先生、セックスってそんなに良いものなんですか?」
「うぇ!?」
「俺、ちょっとそういうのに疎くて……、今さら友達に聞くのも恥ずかしかったんですけど……村田先生になら良いかなって」

 良いかなって! それだけ信頼されているということで嬉しいのだが、なんて答えれば良いんだ。これは一歩間違えば変態扱いされてしまう。慎重に言葉を選ばなければ……。

「……本当に好きな人と、すれば良いもの……だと俺は思う、よ」

 顔に熱が集まるのが分かるが俺は無難な答えを返した、つもりだ。
 名賀はその返答を聞き、納得いったのかいってないのか、どちらともつかない曖昧な表情をする。そして、少しためらいがちに口を開いた。

「……してみたい、です。村田先生と……」
「…………………………………………何を……?」
「その……セ、セックス……」
「…………………………いや、好きっていうのはライクじゃなくてラブの方でな……、あと俺男だし……」
「…………村田先生は、俺のこと嫌いですか?」

 しょんぼりした顔で綺麗な瞳に上目を使って言われると、うっとなる。けれど、どう考えても名賀が言ったことは一時の迷いと決め付けれる。だって、教師で別に可愛くも美人でもない'おとこ'の俺だ。多分、襲われたショックのせいで脳がきちんとした働きを出来ていないんだ。
 俺は名賀を拒否するため、顔を背けて言った。

「きっ、嫌いじゃない……!けれど……そういう目で見れないし……俺が嫌っていうか、なんというか……」
「……絶対に、嫌ですか?」
「絶対に……」

 嫌、ではない。けれども絶対に駄目、なんだ。
 だって俺は教師で名賀は生徒で、その上男同士。そんな関係になってはいけないに決まっている。

「駄目、だ」
「…………どうしても、ですか」
「……うん」

 俺が頷くと、部屋には無言が訪れた。外の部活は休憩中なのか、カチカチという時計の進む音がハッキリと聞こえるほど静かで、居心地が悪い。思わず身動ぎをしたくなって、体を動かすと丁度、手の甲に滴がポツリと落ちてきた。つられるままに下を向いていた顔をあげると名賀の澄んだ瞳から涙が溢れ出している。

「…………っ」

 俺と目があった瞬間、さらにぶわっと涙は溢れ出しシャープな頬を一筋の滴が垂れていった。
 なんだかとても胸がズキズキ痛い。




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