小説 | ナノ
 どれくらいの時間が経ったのだろうか。窓からは夕焼けが差し込み、生徒達が部活をしている音が聞こえてくる。そっと部屋にある時計を見ると、短い針は6の数字をさしていた。
 つまり、かれこれ二時間ほど名賀は黙り込んでいるのだ。
 今の俺に出来ることは側にいてやるぐらい――とか考えていたけれど、よくよく考えてみればもっと良い案があるはずだ。俺なんかより家族の人の方が良いに決まっているのだから家の人に連絡をとるとか、家まで送ってやるとか。
 ……どうやら、俺自身もパニクっていたらしい。冷静な判断ができていなかったが時間を置いたことで、ようやく目が覚めてきたようだ。
 そうとなれば、制服の代わりに保健室で体操着を借りて名賀の担任の先生に相談しよう。早速、俺が行動に移そうと腰をあげた瞬間。

「村田先生」

 ポツリと。だが芯のある声が俺を引き止めた。
 少し驚いて間をあけてから隣をみる。すると、名賀が真剣な顔をしてじっと俺を見ていた。

「ど、どうした……?」

 少し吃ってしまったのは先刻の驚きのせいだ。

「……あの子達は、一体何がしたかったんでしょう」
「…………………………へ?」

 斜め上からの質問に意図せず間抜けな声が出た。
 何って、そりゃあナニだろう。服まで脱がされて、しかも相手も脱いだんだから……。…………まさかだが、名賀は女性経験がないという俺の思惑が当たっていたりするのか?
 ……いやいや、ない、だろう。だって名賀だぞ?誰もが羨むようなイケメンだ。彼女なんて、とっかえひっかえ……。そういえば名賀がよくモテるということは耳にするが、誰と付き合っているとかの噂は全く聞いたことがない。しかも、最初に部屋に入ってきたときの憔悴っぷりと今の質問。……もしかしたらもしかするかもしれない。

 それを確かめるために俺は出来るだけ核心をつけるような言葉を探すため、目を泳がす。そんな挙動不審な俺を名賀は相変わらず真剣な表情で答えを待っているようだ。

「あー……と、名賀?」
「はい」
「いきなりで悪いが、名賀は彼女、とかいたことあるか?」
「彼女ですか?ないです」
「え」

 喉から抜けるような声が出た。

「……おかしい、ですか?」
「! ぜっ、全然おかしくないぞ!?……ち、ちょっと意外だったから……」
「ああ……よく言われます。でも俺、本当に好きじゃない人と付き合いたくないし……」
「………………そっか……。うん。それは、良いことだと思う」

 知らぬ間に俺は名賀のことを馬鹿にしていたらしい。やっぱり名賀は誰もが敵うことのない良い男だということを再確認して、自分が恥ずかしくなる。

「あの、村田先生」
「ん? なんだ?」

 そうなると名賀が普段よりも倍近く輝いて見える。これでいつものような笑顔を携えていたら男の俺でさえやられてたかもしれない。

「結局、あの子達がしたかったことって……」

 そういえば俺、論点ずらしっぱなしだった。




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