小説 | ナノ
休日だというのに広い体育館内には、キュキュと摩擦の音とボールが跳ねる音が響いていた。
汗を流しながら、懸命に練習に励む五人を見てから、毅は腕時計で時間を確認すると部室へと足を進めた。

初めて要以外の四人と顔合わせしてから、毅はマネージャーとしてバスケ部に所属することになった。勿論、要は猛反対したが他の四人が押し黙らせた。
元々、世話を焼いたり家事は好きだった毅は一つ返事で了承したのだった。

涼しいところに置いておいた風呂敷を広げて治からもらった重箱を崩して行く。小皿も用意してコップと箸も並べ終わると、五人が牽制しあいながら部室へ入ってきた。

「昼飯は逃げねぇって」

くすぐったそうに毅が笑いながら茶を部室内にある小さめの冷蔵庫から取り出すと同時に、五人は各々定位置についた。
重箱を真ん中に置いた机は長方形で片側に剛、毅、要。反対側には優、治、靖の順番に座っている。この席順はアミダクジで抽選をしたのだが案外諍いもなく丸くおさまった。

「ちゃんと手洗いました?」
「洗いましたー」

毅も席につき皆に聞くと代表として剛が元気よく答える。その瞳はキラキラと輝いていて早く早く、と訴えている。
毅は柔らかな剛の髪を撫で付けてから、手を合わせて言った。

「じゃあ、いただきます」
「「「「「いただきます(!)」」」」」

五人も手を合わせて声をあげた。
そして各々、重箱の中から好きなおかずやらおにぎりなどをとっていく。セルフサービス形式だが誰も不満は無かった。

「俺、毅くんの作る料理食べてから世界が変わったよー」
「そんな大袈裟な…」
「本当だって!」

市販ではない手作りのタレでつけてある豚肉は絶妙な味で剛は大好きだったが、毅は呆れたように返した。

「剛先輩うぜー。でも、毅の作る飯がガチウマなのは同意だな!」

本当だもん!と騒ぐ剛に、唐揚げを頬張っていた優の毒舌が突き刺さって剛が見るからに落ち込む。
褒められるのは嬉しいけど悪口はいかん。けれど、優があまりに爽やかに言うもんだから毅は咎めることが出来なくて、ありがとうとだけ返した。
そんな中、相変わらず靖は謎が多かった。

「………あっちょんぷりけ…」
「……あれは名作だよな」

シャキシャキと音を立ててごぼうサラダを咀嚼して、呟いた靖の言葉をわざわざ拾って毅は返す。
会話が出来てるのか出来てないのか、毅には分からなかったが靖は嬉しそうに頷いた。

「何か礼をしなければならんな」
「え?」
「美味い飯を作ってもらう上にユニホームの洗濯に部室の掃除…。いつも、ありがとう」

そう言って治は南瓜の煮付けを口に運んだ。じっくり煮込んだそれは芯まで味が染みてほろほろと柔らかく、治は度々感心した。

「治さんって恥ずかしい人ですよね…」

毅は顔を真っ赤にして俯いた。唐突な感謝と共に見せた治の笑顔にやられたのだ。
そんな毅を見て大人しく玉子焼きを食べていた要は苛立ち、治に牙を剥いて威嚇した。

「……要、そう睨むな」
「………」
「こら」

グルル、と今にも唸りそうなくらい治を睨んでいた要だったが毅に叱られると途端にシュンとした。要が犬だったならば耳と尻尾は垂れているだろう。

「…でも」
「でもじゃない」
「毅は俺のなのに…」
「要。それ以上言うと二度と玉子焼き作んないぞ」

ぐずる要はうっと押し黙る。瞳は揺れて戸惑っているようだったが最後には謝っていた。

「(躾だな…)」

治は微笑ましくそれを眺めていた。




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