小説 | ナノ
いきなり大声を出したせいで凛汰は目を丸くして俺を見つめた。
 俺はその瞳をじっと見て言った。

「……俺さ、自分の名前が大嫌いだった。けど凛ちゃん、いや、凛汰に言われてからは自分の名前が好きになった」

 白い凛汰の手を取る。触ってみると、とても冷たくて緊張していたことが簡単に感じ取れて、女の子みたいな柔らかさは無いけど少し筋張った指が愛おしく見えた。
 ぎゅ、と痛くないくらいに力を込めて握ると凛汰の肩が小さく跳ねた。

「俺が皆に本当の名前を教えないのは……世界で一人、凛汰にだけにそう呼ばれたいから」
「……っ!」

 掴んだ手を自分の唇に近付けて、手の甲に口付けると凛汰は息を飲み込んだ。

「ねぇ、凛汰。名前で呼んでよ。じゃないともっと凄いこと、するよ?」
「…………ほんとにっ……いじわる、いっ」
「あれ、言わなかったっけ?」
「〜〜落葉のばかぁっ…!」

 そう言ってからふにゃ、と笑う凛汰を見ると俺はいてもたってもいられなくなって思わず抱き締めて熱いキスを繰り広げてしまったのは直ぐのことだった。




***

「……で! 今はどのあたりまでいったの?」

 ニヤニヤしながら聞いてきたのは、蘭ちゃんだ。
 今回の顛末にはすべてこの蘭ちゃんが関係している。
 というのも小さい頃、泣き虫という理由で凛汰をいじめていたのはこの蘭ちゃんだったりする。本人曰く泣き顔が可愛くてつい、とのこと。
 まぁ、それは俺と凛汰が知り合うきっかけになったから良いものの問題はここからだ。
 凛汰が引っ越してから、たまたま二人は同じ私立の中学校に通うことになったらしい。昔は餓鬼大将だった蘭ちゃんが可憐な女の子になっていたことに凛汰は驚愕したそうだ。
 そして二人はまともに話してみるとお互いに気があったらしく、小さい頃の関係とは違い、今では親友といっても間違いはない仲へと発展した。そこで気を許してしまった凛汰は俺への想いを蘭ちゃんに洩らしてしまったのだ。
 所謂、腐女子というものになっていた蘭ちゃんはそこから凛汰を魅力的にするためによりによりをかけて原石を磨いたという。だから、あの女装とかえろい雰囲気を成し得ていた、と蘭ちゃんは豪語するのだがその磨く工程を未だに詳しくは教えてもらっていない。絶対いつか吐かせる。

 二人は高校生になってから俺を見つけたらしい。見つけられたのは蘭ちゃんの力によるとのことだが、これもまた詳細は教えてくれなかった。確実に蘭ちゃんは悪魔だ。
 そして馬鹿みたいに毎週、晴也と女の子を捕まえようとする俺(これは黒歴史だ)をわざわざ待ち伏せしたのだ。見事、蘭ちゃんの思惑通り俺達はくっついたのだが、蘭ちゃんはプライバシーなんてお構いなしに割り込んでくる。
 どこまでいった、とか親父か。

「……守秘させてもらう」
「ここに葉くんが今まで誑かしてきた女の子リストがあります。これを凛ちゃんに見せ」
「触り合いっこまでいきました……っ!」
「きゃー! たまらん!」

 ブツブツ呟きながらメモをする蘭ちゃんに冷ややかな視線を送ってみるが効果はゼロだった。
 腐女子ってこわい。

「……なぁなぁ、男同士ってやっぱり尻使うの」
「うっせぇ、黙れ」
「そうよ! なになに? 晴くんも目覚めた?」

 晴也は今までと変わらずに俺と接してくれるし、凛汰のことも何も言わなかった。意外と良い奴なんだけれど阿呆なのが残念で仕方ない。
 俺が思うに晴也はいつか蘭ちゃんの毒牙にかかるだろう。この前、阿呆の子受けも良い…!とか呟いてたし。

「……ただいま……って、蘭ちゃん声おっきい……」

 トイレから戻ってきた凛汰が薄く頬を染めて注意を促した。まぁ、大声で放送禁止用語言ってるもんな。
 というか、おっきい……はえろい。もう一回言って欲しい。

「……?なに、じっと見て……。どっか、おかしい?」

 そう言って凛汰は少し手を広げた。
 俺がじーっと凛汰のことを見ていたから気になったんだろう。おかしなところなんか一つもない。けれども、短い黒髪とかネクタイだとかズボン穿いてるってことを確認すると男なんだなぁって思う。そんで、やっぱり男でも可愛いなぁって再確認する。
 うん、やっぱり大好きだ。
 チャック開いてるよ、って言ってからかってやれば、ひとしきり怒ったあとに仕方ないって顔してあのふにゃっとした笑みを見せてくれるだろう、と妄想してから俺は口を開いたのだった。

おわり



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