あー……。イラつく。
目の前には楽しそうに話す友人もとい晴也と平凡な子もとい、凛ちゃん。そして俺の隣には楽しそうに晴也と凛ちゃんを眺める巨乳っ子もとい、蘭ちゃん。なに、俺は眼中には無いってか。……よく逆ナンとかされるし、女にないがしろにされたことないからちょっとショックだ。
逆に凛ちゃんは友人と本当に楽しそうにしている。近くで見ると平凡なんだけど…………友人が言ってたとおり、なんかえろい。ちょっとタレ目ぎみな瞳とか常にうっすらピンク色の肌、ぷっくらした唇とか。ジュース飲むときにコップを両手で持ってストロー咥えてる姿とかフェラしてるようにしか見えないから。
「はぁ……」
最初は良い感じに進んでたんだ。
ていうかむしろ俺達がいきなり押しかけたときノリ気だったのは蘭ちゃんだったし。嬉々として自己紹介しあった後、自然と二人ずつに会話が別れたんだが長くは続かず今の状況になってしまったのだ。
つまんねぇ。けどこれは多分、蘭ちゃんと会話が出来ないからじゃなくて――
「やきもち?」
ニッコリと笑った蘭ちゃんがいきなり俺に問い掛けて来た。
「……いきなり何言ってんの?俺がやきもち焼くって一体誰に」
「晴也くん」
「…………」
「図星でしょ」
さっきまでニッコリと笑っていたのに、今はニヤニヤと笑いながら蘭ちゃんは言った。
やきもち。その言葉がやけにしっくり来て俺は言い返せなくなってしまった。
最初に感じたもやもやする気持ちにさっきまでのイライラは全部、晴也に対してで俺はなぜかとても凛ちゃんのことが気になっていたのだ。その理由なんて分からないけど自覚してしまうと、余計にイライラしてきた。
「葉くんって、けっこう鈍いよね」
「……初対面で、そんなこと言われたくないけど」
「……ふふふ」
「……なに笑ってんの?」
「ちょっと面白かったから、つい」
蘭ちゃんって頭おかしい子なのかな。電波とか受信してそう。
あ、今更だけど葉っていうのは俺の名前。本当の名前は落葉なんだけど、らくよう、なんてダサくて恥ずかしいし、なにより落ち葉って意味で小さい頃は大嫌いだった。けれど、一人だけは俺の名前を褒めてくれた奴がいて、そこからは世界が変わったように思えた。その子の名前とか見た目とか忘れちゃったけど、笑った顔がめちゃめちゃ可愛かったのは覚えてる。もしかしたらあれが初恋かもしれない。たしか男の子だったけど俺、バイだし。
あの子、今何してんだろ……。
「にしても凛ちゃんって可愛いよね」
「え! そ、そうですか? ありがとうございます……」
「……その恥ずかしそうに、はにかむ顔とかめちゃくちゃ可愛い……」
今、多分俺の血管が何本かちぎれた。ブチッて音したし。
くそ! 晴也の奴め…! さり気ないボディタッチを交えながら、おとしにかかってやがる。
確かに、頬を赤く染めながらはにかむ凛ちゃんは庇護欲をそそるっていうか、むしろ襲いたくなるような魔力を持っている。今まで、わざとそんな反応する女の子は一杯いたけど凛ちゃんは素っぽいんだよなぁ……。可愛い。
「……私も晴也くんとお話ししたいなぁ」
だめかな? と首を少し横に傾げて蘭ちゃんは言った。
今の俺だから言えるけれども、絶対に演技だ。あざとい。悪魔の羽と尻尾が見えるぜ……。
ていうか、俺のことは本格的にどうでも良いんだ。ま、別に良いけど。
「うわ、俺ってば罪な男!」
阿呆みたいにポーズをとる晴也を白い目で見るが、効果は見られない。阿呆だもんな。
でも、蘭ちゃんは一体何をしたいんだろうか。ガチで晴也に興味があるわけでも無さそうなんだけれど。やっぱり電波受信してる。
「ほら、葉! 席チェンジ! あ、凛ちゃんはまた後で一杯お話ししようね!」
…………あれ。晴也が蘭ちゃんってことは俺が凛ちゃんってことですか。
……俺、萌えすぎて死ぬかも。
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