小説 | ナノ
「うわ、あの子ちょうかわいい」

 そう言って目の前に座る友人は、今入ってきた客を指差した。
 言われるがまま見てみると、そこには肩までの艶やかな黒髪で清楚な雰囲気の女の子がいた。たしかにかわいい。

「おっぱいも良いな」
「D……いや、Eか……?」
「いやいや、あれはFぐらいあるって」

 なんて、下世話な会話を繰り広げているうちに女の子は俺達から意外と近い席に座った。そして、手短に注文を頼むと鞄から文庫本を取り出して読み始めた。

「何読んでんだろ」
「カバーしてるから分かんね。てか一人なんかな」
「あれは一人っしょ」
「……どうする?」
「…………最初はグーッ!」

 じゃんけんぽいっ!で俺はチョキ、友人はパーを出した。

「くそおぉぉっ! 俺の右手の馬鹿やろぉおぉぉ!!」
「ふっふっふ……、残念だったな!」
「あー……。お前本当にじゃんけん強いよなぁ……。もう良いよ、さっさと行ってこい」
「じゃ、お言葉に甘え――っ!」

 そう言って席を立って女の子のもとへと足を進めようとしたら、友人の方を見ていたせいでちょうど通路を歩いてたらしい人とぶつかった。

「うわ、すいません! 大丈夫っすか?」
「……っ!」

 まさかこけてしまっているとは思わなくて咄嗟に謝って手を伸ばしたが、その子はまるで俺を避けるように何も言わずそそくさと行ってしまった。
 ぶつかった俺も悪いけどさ、感じ悪くね?

「あ、やった」
「え? なにが」
「ほら」

 そう言って友人が指差した先には、あのかわいい女の子と俺がついさっきぶつかった女の子が楽しそうに話している姿があった。

「これで人数あうな」
「え。なに、お前来るの?」
「当たり前じゃん。あ、もちろん巨乳ちゃんは譲ってやるよ。てか、俺あの子けっこうタイプだし」
「……平凡じゃん」
「いやいや!なんかえろいから!!」
「…………ふーん」

 なんだか分からないけどムカつく。自分のものを取られてしまったような気分だ。
 けれど、既に自分のドリンクバーのコップを持って移動する気満々の友人を見ると拒否できない。ていうか拒否する理由が説明できない。
 だから仕方なく俺も自分のコップを持って足を進めたのだった。




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