「…い、いつから」
好きなんだろう、俺のこと。
真摯な態度に気後れしつつ尋ねるとタクマは深いため息を一つ吐いて、話出した。
「…初めてさ、トモを見たときに可愛いなぁって思って」
「か、かわいい…?」
「うん。最初はなんていうのかな…ペットに対する愛情っていうか…。トモ、犬みたいだから」
こいつ、俺のことそんな風に見てたのか。
でも思い出してみれば、俺のことを犬みたいに撫で繰り回してた気もする。普通の奴は顎なんて撫でてこないよな、うん。
「いつもニコニコしてて、明るくて、裏表がない…簡単に言うとばかなだけなんだけど」
「…おまえ」
「そんなとこも可愛くてさ、トモが俺以外に懐いてるのみたらすっげぇイライラした」
俺を抱き締めるタクマの腕に力がこもる。そのままタクマは俺の肩に顔を埋めた。
目の前に、柔らかそうな髪の毛が広がって甘い匂いが鼻孔をかすめる。いつもは気にしないこともタクマを意識し始めた今は全てが興味の対象となっていた。
「それから。俺が好きだぜーってオーラ出すのにトモは全然気付かないし」
「…うん」
「ほんと、にぶい…。…でもそんなとこも好きだなんて俺ってば末期だよ…」
そう言うとタクマは少し距離をとった。正座なんかするもんだから俺までつられて正座してかしこまってしまう。
再び、顔をあげて俺達は見つめあった。数秒だけだったけど、いつもとは違う真剣な態度とタクマの強い想いが伝わってきて俺にはとても長く感じた。
タクマは意を決したように口を開いた。
「今さらだけど…」
「うん」
「俺はトモのことが好きだ」
「…」
「大好きだ!」
静かな部屋にはタクマの声がよく響く。
「よければ、俺とお付き合いして欲しいです!」
ガバッと勢いよく土下座してそのままタクマは静止した。
緊張からか肩が震えている。いつもからは到底想像もできない姿に俺は胸が震えた。
好きだ、と言われて正直嬉しかった。嫌悪感は全然無いし胸も高鳴っている。男同士ってことも承知の上だ。
けれど、俺を騙して変なことしたりさせたのは変わりない。こっちは親身になってやったというのに。
俺はタクマの肩を掴み、ゆっくりと顔をあげさせた。
「俺はさ、タクマのこと友達って意味で好きだよ」
「…」
「その気持ちは変わんない」
「……絶対に?」
「うん」
「………」
泣くまいと真一文字にきつく噛み締められた唇が痛々しい。
そんな顔されると苦しくて仕方なくて、そっとタクマの唇をなぞってから俺は決意して言葉を紡いだ。
「…けど、その気持ちに…恋愛感情、とか、プラスされるかも…」
「!」
「…友達で恋人はダメ?タクマ」
できる限りの笑顔で言ってやるとタクマはバカみたいに泣いた。人のこと言えねぇじゃんか、ばか。
***
「ドモ"ォ〜!!!」
「いつまで泣いてんだよ!ていうかさっさと鼻血拭け!!」
「あ"!!忘れてた…」
もうとっくに血は乾いていたが涙のせいで少しずつ溶けてきていた。いくらイケメンでも流石に見苦しい。
タクマはベッド近くに置いてあった箱ティッシュを取り、何枚か抜いてゴシゴシと顔を擦った。そして幾分か見られるようになった顔でタクマが言った。
「…一応、俺達両思いなんだよね」
「まぁ一応…」
「じゃあ続きしよっか!」
「は?え。ちょ、おま」
血塗れのシーツとか体よりも、俺は大事なことを忘れていた。
「っ!!!!」
タクマのリーサルウェポン。
すでに対戦準備は出来ていて、それは凛々しく空を仰いでいた。
「ちょ、そんなん突っ込んだら壊れるって!」
「大丈夫!大丈夫!!」
にっこり笑うタクマに俺は、騙されてるよなと思いつつ絆されていくのだった。
おわり
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