小説 | ナノ
再び部屋に静寂が訪れる。
相変わらず萩原の顔からは表情が消えていて、誰も口を開けない。皆、怯えた顔で視線を彷徨わせていた。
と思ったら転入生だけは例外のようで空気が読めず、瞳に涙を浮かべて叫ぶように言った。

「っ伯父さん!俺達は何も悪くない!!颯太(そうた)だって俺のためにしてくれただけなんだ…!」
「へぇ」
「そもそも、そこにいるソイツが―――」
「ねぇ、咲」
「…な、なに?」
「つまらない」
「え?」
「面白くないって言ってるの」

瞬間、転入生が崩れ落ちる。
萩原が転入生の足を蹴ったのだ。
赤髪のときより威力は小さいようだが、痛いことに間違いはない。けれど転入生は衝撃の方が強いようで信じられないという顔をして痛みに悶えてはいなかった。
その反応から転入生が今まで崇拝に近い感情を萩原に抱いていたのだろうことが見て取れる。
趣味が悪い。

「咲っ!」
「咲ちゃん!」

呆然としている転入生に周りの奴等が意識を戻して群がった。
転入生の蹴られた足を気にしつつ大丈夫か、と声を掛けるが転入生は、周りの奴等に見向きも礼もせず萩原を見て言った。

「なんで?伯父さんも俺のこと好きなんだろ?俺は皆から愛されるんだから…。………そ、そっか。伯父さんはソイツに何か弱味を握られてるとか、そうだよな!じゃなきゃ伯父さんが俺を蹴るなんて、そんなことしないよな!」

転入生はすがりつくような視線を萩原に向けてから俺を睨んだ。
いつもの無邪気さは欠片もなく、その視線は憎悪で溢れていて鳥肌が立つ。
これが本性か。ヒステリーな女みたいでうざったるい。


「なんでオレが、君なんかを愛さなくちゃいけないの?」

そんな転入生にゴミでも見るかのように萩原は吐き捨てた。

「オレは君じゃなくて」

それから、くるりと転入生に背を向けて俺に近付いてくる。
至近距離までになると萩原は俺の唇を人差し指でなぞった。
端から円を描くように動くそれに自然と眉間に皺が寄る。それに反して萩原の顔には、いつもの嫌な笑顔が段々と戻ってきた。

「行弘君、ほら」

いつもは声で指示なんかしないくせに。
俺の唇から指を自分の唇へと移動させて、見せつけるように舐める。
いや、実際に萩原は転入生達にわざと見せつけている。
周りの奴等は当たり前だが全く分からない、という様子で俺達を見ていて転入生なんか俺を射殺すぐらいの眼力で睨んできた。
けれど、俺は萩原に逆らうことは出来ないし何よりこれは契約だ。

仕方なく痛む体を叱咤して萩原の唇に自分の唇を触れ合わせた。

「っ!ちょ…!」

すぐに唇を離そうとした瞬間、腰を抱かれて逃げられなくなった。
抗議しようと口を開けたら、萩原の舌が入ってきて目の前が真っ白になる。
萩原の長い舌は好き勝手に俺の口内を蹂躙して、聞きたくもない水音を部屋中に木霊させた。

「…っ、ん」

こんな体では、まともに抵抗なんて出来るわけなくされるがままだ。
気持ち悪くて舌で追い返そうとしたら、逆に絡めとられる。
言い表せれないくらいの嫌悪感に目眩がした。

「…っ、は。…ぜってぇ殺す…!」
「ふふふ。出来ないくせに」

唇が離れた途端に手の甲で唇を拭う俺を見て優雅に笑う萩原に殺意が溢れる。
飄々としていて計り知れない萩原の思考なんて理解出来る訳はないが、一体この男は俺をどうしたいのだろうか。苦しめたいのか、それとも―――。


「咲、これで分かったでしょ?オレが行弘を愛してるって」

ああ、気持ち悪い。




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