小説 | ナノ
どうやら転入生は色んな男に告白されて逃げていたらしい。
最もな判断だが、転入生は満更でもないようで頬を赤く染めている。所詮ホモなのか。

「俺…皆のこと、大好きだから…。だから俺は、一人だけ選ぶとかそんなこと出来ない!」
「咲…」

もう頼むから他のところでやってくれ。吐きそう。
あといい加減に退かねぇとキレんぞ。
なるべく青い空を見て気を紛らわし、切実に願っていた俺の想いは良くない形で伝わった。

「咲がそう言うなら仕方ありませんね。…ところで咲、鬘と眼鏡はどうしたのですか?」
「え!?あ!!何処いったんだろ?」

転入生は指摘されてようやく気付く。
そして俺の存在を見つけ口を開こうとしたが、転入生のケツを追ってた男が遮った。

「つーか、咲の下にいる奴、誰?なにしてんの?」
「…もしかして嫌がる咲を無理矢理襲ったのか」
「許せないねぇ〜。俺の咲ちゃん襲うとかマジ殺すよ?」
「おい!テメェさっさと咲から離れろ!!」
「咲君、危ないからこっちにおいで」
「え?あ、うん!」

二番目以降から頭に虫沸いてんだろ。
どう見ても俺が下敷きになってて被害者だ。
今にも血管がブチ切れそうだが、なんとか鎮めて体から砂を払い立ち上がる。
そして、出来るだけ笑顔で丁寧にを心掛けて言った。

「私は裏門の警備を任されております江田と申します。お言葉ですが、決して私はその様なことはしておりません。先程のは事故――」
「嘘つくんじゃねぇよ!ヘラヘラしやがって!」
「嘘ではありません」
「ちょっと口答えしないでくれる?アンタなんかすぐに消しちゃえるんだからね」
「咲君、大丈夫?」
「大丈夫!元気だぜ!!ちょっと体がいてぇけど」
「やっぱり!!」

誤解を招く言い方をする転入生は、周りにチヤホヤされて舞い上がり自分のことしか考えていない。
周りは周りで、こっちが下手に出ると調子に乗って俺が転入生を襲ったと決め付けて聞く耳を持たない。転入生に盲目で子どもだ。
どうせぬくぬくと楽して生きてきて、親の脛齧るのになんの抵抗もないのか、こいつらは。
苛々が止まらない。

「っテメェ!っんだその顔は!!」
「っ!」

ヘラヘラすんなって言われたから無表情で迎えていたら、真っ赤な髪でいかにも不良な男に殴られた。
突然のことに目がチカチカするが、すぐに俺は勢いのまま相手の胸倉を掴んで拳を振り上げた。

しかし、俺の拳は降りることは無かった。

反撃しない俺を鼻で笑ってから男は、そのまま俺に蹴りを入れる。そしてつられる様に周りの奴等も好き勝手に俺を殴って蹴った。
痛いけど我慢出来ないことはない。
舌を噛まないよう唇を噛み締めて俺は、数分。いや数十分だろうか。暴行を甘んじた。


拳を振り上げたとき、俺は弟と妹、そして母さんの笑ってる顔を思い出した。
俺が此処に勤めてから皆の顔に笑顔が増えたのだ。
あの憎らしい借金取りは来なくて夜はぐっすり眠れるし、母さんもパートだけで事足りて今までおざなりにしていた家族との交流を出来る。そして弟や妹達には気を遣わせないで好きなことをやらせてやれるし高校だって行かせてやれる。
俺が、毎日欠かさず家に電話すると一人一人がその日にあったことを一生懸命伝えて俺を励ましてくれて、家に帰った日なんて恥ずかしいくらいに迎えてくれる。
こんな幸せを失くすなんてこと出来る訳がなかった。




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