小説 | ナノ
「その嘘笑いやめろよ!気持ち悪いぞ!」
「……ふふ、よく嘘笑いだって見抜きましたね、咲(さく)…。気に入りました」
「っん!…い、いきなりなにすんだ!」
「可愛かったので、つい」
「お、俺はホモじゃねー!!」

もじゃもじゃ頭で瓶底眼鏡の転入生と腹黒い美形副会長のキスシーンをばっちり見てしまった俺は飲んでいたコーヒーを噴き出した。
なにあれキメェ、冗談じゃねーぞ。糞ホモめが。
コーヒーのせいで汚れた机を拭きつつ俺は悪態をついた。

俺の名前は江田 行弘(えだ ゆきひろ)。二十一歳。
今年の春から、この名門お坊ちゃま学校の警備員をしているのだがこの学校は男同士の恋愛が盛んなホモ学校だった。
普通に考えてホモなんて考えられない。
女の子のあの柔らかい体でも甘い匂いでもなく、硬くて汗臭い体。何よりあの人体の神秘のおっぱいが無い。
ほんと信じらんねぇ。

今すぐにでもここから逃げ出したいが俺はこの職を手放す訳にはいかなかった。

俺の家は母子家庭でしかも五人兄弟という大家族だ。
父親は莫大な借金を残して逃亡。母さんはなんとか返済しようと頑張るが闇金の利息というものは本当に悪魔みたいなもんで一向に減らない。
毎晩、ドアの向こうから怒鳴りつけてくる借金取りの声が憎くて堪らなかった。

俺は中学を卒業して直ぐに幾つものアルバイトを始めた。
朝は新聞配達をして昼は年齢を偽ってパチンコ屋。夜には居酒屋で働いた。
三時間寝れれば良い方で食事は居酒屋の賄いのみだったが、可愛い弟や妹達には元気に自由に育って欲しかったし何より母さんを助けたかったから全然苦じゃなかった。

しかし俺の努力も虚しく、俺が19歳になったとき母が過労で倒れてしまった。
ベッドに横たわって点滴をうける母さんはすっかりやつれて痛々しく、父親だった存在と自分の無力さに拳を握り締めて俺は声を殺して泣いた。

俺のバイト収入だけでは、もう家賃どころか食費さえ出せない状態で行き詰まった俺は臓器売買という手段を思いついた。よくヤクザもののドラマなんかで見るが実際出来るかどうかなんて分からない。
けれど俺は少しでも希望の光を求めて夜の町へと足を踏み出した。



夜中だというのにとても騒がしくて明るい。
客引きをする女の子達は派手に着飾り色気をまき散らし、男はへりくだった態度で媚びを売ってくる。
俺はそれらを無視しつつ、そこから少し離れた落ち着いた場所にあるビルの前に立って見上げた。

ちょうど三階の窓の部分に"萩原事務所"という文字が見える。
俺はゴクリと唾を飲み込んでビルへと入った。
一階は電気だけがついていて人気はない。俺は階段を使って三階まで登った。
目の前にドアがあり、表札らしき所には窓と同じく"萩原事務所"と書かれてある。
心臓が激しく脈打つ。
俺は覚悟してからインターホンを押した。
ピンポーンと明るいチャイム音がかすかに聞こえる。
そして直ぐにドアが開けられた。

「待ってたよ」

ドアを開けた男はニタリと笑って俺を中へと招き入れた。




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