小説 | ナノ
雀がチュンチュンと鳴いている。うるさい、と思い布団を被ったがすぐに引き剥がした。

「………今何時だ」

はっきりしない頭を無理矢理起動させて起き上がる。昨日は確か夕飯の鰤大根を食べてすぐに寝てしまったはずだ。にしても鰤大根、めちゃめちゃ美味だった。

枕元にある携帯をとり時間を確認するともう11時だった。デジャビュ。
まぁ、今日は休日だから良しとしよう。

とりあえず、部屋から出てリビングに行くとトラさんが昼飯を作っていた。良いにおいが鼻をかすめる。それに釣られるように近寄れば、トラさんが俺に気付いてビックリした。

「おはようございます」
「…おう」

挨拶するとぶっきらぼうに返される。いつもこんな感じだが、今日はなんだかトラさんの雰囲気がおかしい。
固いというかぎこちないというか。

「…なんか、あったんですか?」
「な、なんもねぇよ!さっ、さっさと顔洗ってこい!!」
「え、ちょ…」

明らかに挙動不審だったがあまりに必死なので仕方なく洗面所に向かった。




顔を洗って、タオルを目をつぶったまま探していたらいきなり引っ張られた。
急なことに驚いていると顔を拭かれる。いや、むしろゴシゴシと擦られた。地味に痛い。

「おはようございます、裕信さん」
「おはよう」

なんとかタオル責めから逃げるとニコニコ笑顔な裕信さんと目があう。俺を後ろから抱き込むような格好だが身長差がそれを実現していた。
いつか抜いてやる、と思っていると顎を掴まれ深くキスをされた。

「っふ…ん」

口蓋を柔らかく噛まれてから、舌が侵入してきて身勝手に俺の口内を蹂躙される。
舌に歯茎に唇に。
食われてしまいそうな舌技に、せっかく顔を洗って目覚めた頭が再びぼんやりしてきた。

けれど体も疼いてきてやばいと思ったときに口内から舌を抜かれた。

「あ…ん、ん」

軽く啄むようなバードキスを二、三回して完全に整った裕信さんの顔が離れて安堵する。ちょっと寂しいとか思ったのは秘密だ。

「感想は?」
「…気持ち良かったです」

ニヤニヤしながら、尋ねてくる裕信さんに正直に答えると得意気な表情になった。


「いつまで顔洗って…」

お玉片手に洗面所に入ってきたトラさんは固まった、かと思うと裕信を睨んで、早く来いと一言呟いてから行ってしまった。
いつものトラさんだったらセクハラだゴラァ!とか言って裕信さんを叱るのに。
やはり今日のトラさんはおかしい。

「………行くか」

そして裕信さんも。何も言い返さない。
俺は不穏な空気を感じながら裕信さんの後に続いた。




三人で無言のまま箸を進めた昼飯は、あまり味がしなかった。しかも居心地が悪い。
はぁ、と俺がため息をついた時だった。

「彰」
「!はい」
「お前、トラとセックスしろ」

どんがらがっしゃーん。トラさんが盛大に拭いていた皿だけでなく、おまけとばかりに他の皿も落としてしまった。

「テ、テメェ!!何言ってんだ」
「彰、やれ」

散乱する皿の破片に、すごい形相で裕信さんに掴み掛かるトラさん。そして俺に命令する裕信さん。

なにこれ、カオス。




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