小説 | ナノ
レトが目を覚ましたときにはもう、ハヴェルの姿は無く日も昇っていた。
黄色く見える太陽に目を細めレトは、起き上がろうとするが腰が悲鳴をあげてベッドに逆戻りした。
このまま今日は寝転んでいようかとレトは考えたがシーツから情事の残り香が鼻につく。
昨夜のことを思い出すのが嫌で無理矢理に立ち上がった。

「っ!や…!」

するとハヴェルは体は綺麗に拭いたものの、アナルの中は浅いところまでしか処理していなかったようで立ち上がった反動で奥に残っていた精液が太股を伝いこぼれ落ちる。
まるで粗相をしてしまったような感覚と罪悪感にレトは座り込んで泣いた。

―――またハヴェル様に嫌われる。

性的なことに疎いため、行為の意図を理解出来ないレトはハヴェルが自分を嫌っている、という結論を出していた。
最初から自分のことを良しと思わず、ディアスに言われたから渋々部屋に置いていただけで、この前の土曜日にとうとう堪忍袋の緒が切れたのだ。
そう思い込んだレトは土曜日の自分を殴ってやりたくて仕方なかった。

今、この場にはレトの勘違いを正せる者は居らず、ただ時間だけが過ぎていった。



***

存分に性欲を発散してご機嫌なハヴェルは、いつもより断然調子が良く騎士達を厳しくしごきあげた。
何があったか知らない騎士達は、いつもの数倍はある鬼のような訓練を必死にこなして、ディアスの帰りを心から願った。

すべての訓練を終えた頃には、疲労で立ってられる者がいないほどだったが同じ量の訓練をこなしたはずのハヴェルはケロリとしていて、さっさと自室へと戻ってしまう。
その様を見て騎士達は屍のように地面とハグしつつ頑張ろう、と心に目標を刻んだのだった。


***

ハヴェルはいつものように部屋に戻ると直ぐに汗を流そうと考えていた。
しかしそれは、ドアを開けた瞬間飛び込んできた光景によって打ち消されてしまう。

レトが玄関で体にシーツを巻き付けた格好で土下座していたからだ。

あまりの衝撃に普段、鉄仮面と言われるほど表情を出さないハヴェルがポカンとした。
付き合いの長い者が居合わせたら、その表情を何百枚も写真におさめたことだろう。

「…何をしている」

やっとのことで絞り出した声は、意図せず低くなる。
それにレトは体を一度大きく震わせて顔をあげずに答えた。

「お、おれ…ハヴェル様に迷惑ばかりかけてきました」

レトの声は散々、喘がされたせいで嗄れていた。しかも今は涙声のため庇護欲をそそるには十分な効果がある。
ハヴェルはじっとレトを見つめた。

「もともと、おれなんかがハヴェル様やディアス様と一緒に、暮らすなんて…そんなことしちゃいけないんです。なのに、おれ、調子に乗って…!…本当に、申し訳ありませんでした…!!」

ガツン、と元々近かったレトの額と床がぶつかりあった。
しかしレトは顔をあげることなく小さく嗚咽だけを漏らす。
ハヴェルはそんなレトにそっと手を添えて顔をあげさせた。

泣き腫らした目元は真っ赤で、淡い桃色の唇はきつく噛み締められている。意外と長い睫毛の奥の瞳は澄んだ黒でハヴェルは愕然とした。

自分はこんなに純粋無垢な存在を汚してきたのか。幼いながらに必死に考えて、悩んでいたというのに弄んで。

「レト…」

気付けばハヴェルはレトを抱き締めていた。
この小さな存在を守ってやらなければ。そう心から思った。

ハヴェルの温い体温にレトは目を見張ってから、更に涙を零して遠慮がちに抱き締め返したのだった。




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