小説 | ナノ
風呂から上がり夕食も済ませた二人は一緒にソファに座って本を読んでいた。
といっても教育を受けていないレトは字が読めないのでディアスに本を読み上げてもらう。
その最中にディアスが思い出したように言った。

「あ、そうそうレト」
「?」
「俺、明日から出張なの」
「しゅっちょう…?」

聞き慣れない言葉にレトは首を傾げる。

「ああ、ちょっと遠い所に行かなきゃならなくて。多分一週間は帰って来れないんだ」
「…」
「だから明日から俺は居ないけど、いつも通り火曜日と木曜日、あと日曜日は俺の部屋で過ごして」
「……」
「分かった?」
「………はい」
「……もー!そんな顔しちゃ駄目だろ!可愛いなこんにゃろー!!」
「はぷっ」

レトがまるで耳をへこたれる子犬のように見えて父性をくすぐられたディアスはレトを正面から抱き上げる。
そのまま軽々と自分の膝に乗せて華奢な体を抱き締めて肩に顔を埋めた。

「…はぁあー、本当可愛いなー」
「可愛くないです」
「可愛い」
「……」

一応、お年頃なレトとしては"可愛い"は褒められているというよりからかわれているように思えて口を尖らせる。

「もー、あのバカめ…」
「ばか?」
「ん?ああ、俺の幼馴染みのこと。アドルフっていうんだけど」
「…そのアドルフ様が何か…?」
「元はと言えばアドルフが原因なんだよ!」

レトが尋ねるとディアスは聞いてくれ!とばかりに少し距離を作り鼻息荒く話始めた。
ディアスによるとアドルフは隣国の騎士団長で正義感が強く見た目も鼻筋の通った端整な顔で国民からあつい人気を支持している。
しかし、その正義感が仇となり一部の貴族とぶつかりあう事が多く、よく問題を起こしていた。
そのアドルフを説得して宥めることが出来るのが他でもないディアスであるため、ディアスは事件が起きる度に隣国の騎士達にせがまれ仕方なく赴くのだ。
その間こちらの騎士団は、有能なハヴェルが指揮をとってくれるので問題はないがアドルフにはいい加減にしてほしいとディアスは愚痴を吐露した。


「…ごめんなさい」
「レト?なんで謝るの?」
「…だっておれ、わがままでした」

眉を八の字にしてレトはディアスの服の裾を掴んだ。
レトは表情を抑えることも出来ないせいでディアスに悟られた自分の愚かさと、ディアスのことを考えなかった自分に後悔した。


「そんなことないよ」
「あります」
「……ねぇ、レト。俺はね、レトにもっと我が儘言ってほしい」

ディアスは慈しむようにレトの髪の毛を梳いた。

「さっきだって凄く嬉しかった」
「…」
「だから、もっと我が儘、言っても良いんだよ?」
「…でも」
「ううん。我が儘言って?」

ほら、とディアスはレトを促す。
レトはしばしの間躊躇したがディアスの優しい語りかけに、おずおずと口を開いた。

「本当は…」
「うん」
「しゅっちょう、に行ってほしくないです」
「うん…」
「無理だ、ってことは分かってます。…でもさびしい、んです…」
「………ごめん」
「だ、だから!いや、だからっていうのもおかしいんですけど…。う、その、あの………きょ、今日、寝る時に…ぎゅっ、てしてて…ほしい、です…」

ぷすーと顔から火が出てるんじゃないか、と思うくらい顔を真っ赤にしてレトは言うが返事がない。
調子に乗りすぎた、と恐る恐るディアスを見遣るとポカーンとしており、だらしなく口が開いていてなんとも間抜けな表情だった。

「あ、あの…ディアス様?やっぱりめいわ、うわ!」

謝辞を入れようとするといきなりディアスがレトを抱き上げて走り出した。
ドタドタと音を立てて辿り着いた先は寝室で優しくベッドに下ろされたと思いきや、すぐにベッドに入ってきたディアスに横から抱き締められて少し苦しくなる。

「え、あ、あの、ディアス様?」
「…わいい」
「え?」
「かーわいいぃ!!!」

動転しているレトをよそにディアスは掛け布団を寄せて腕枕までする。
ぐりぐりと頬擦りされるがレトは決して嫌な気分ではなく、むしろ心地よかった。

「ふへ、くすぐったい」
「愛してるぞー!」

耳元で愛を囁かれながらレトは夜を明かしたのだった。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -