小説 | ナノ
「いつになったら俺達の赤ちゃん出来んだろねぇ」

 そう佐々木 保(ささき たもつ)が呟けば、隣を歩いていた鷹栖 実(たかす みのり)は端麗な顔を歪ませて盛大にむせた。
 そして、マジマジと保を凝視する。自分のお腹に手をあてていた保はそんな実を訝しげに見上げて、首を傾げた。

「いきなりどしたのぉ?」
「……」
「変な実ぃ」

 ケラケラ笑いながら保は再び歩み始める。実は呆然としていたが、慌てて小走りで保の横に並んだ。
 横目で保を窺うと、よく分からない鼻歌を歌いながら自身の腹を撫でる。その姿はまるで産まれてくる我が子を慈しむ妊婦のようで実はクラクラした。

「……保」
「んー?」
「……男は妊娠でき」
「あ!」
「……」
「先生に診てもらってないじゃん。そりゃ、分かんないわけだ。えへ、もしかしたらもう赤ちゃん出来てるかもしんないねぇ」

 ふにゃ、と笑った保は別に顔が整っているわけでもなく、いたって凡庸な顔つきなのだが実にはたまらなく可愛く見えた。脱色し過ぎて痛んだ髪もひよこのようで愛らしく、気の抜けた喋り方も個性があって良い。
 実は保に文字通り骨抜き状態だ。
 最初はあるチームの総長と副総長、信頼出来る仲間という認識だったが気付けば恋人になっていた。チームの者から言わせれば最初から恋人のようだったのことだが、今は置いておく。
 基本的に恥ずかしげなく甘える保とそれを受け入れる実、所謂バカップルという2人は喧嘩することもなく仲睦まじく過ごしてきた。
 もし、お互いの不満を挙げるならば保は実の真面目っぷり。そして実は保の常識の無さを挙げるだろう。
 前者は保の懐柔によって段々と緩和しており、最初は手を繋ぐことすら躊躇っていた実だが今では保が願えばどこでもキスをするほどになった。しかし、後者は相変わらずで実は日々、保の突拍子の無い発言に驚かされていた。
 先ほどのこともそうだ。保の発言から、男は妊娠出来ないことを知らないことが窺える。一から、説明しようにも保は理解力が乏しい。さらに、すぐに納得してくれないという見た目にそぐわない強情さも持ち合わせていた。

「実ぃ、早く保健室行こ? パパになれるかもしんないんだよぉ」
「……」

 言いたいことはやまほどあった。
 けれど実の大きな手に保が指を絡めてギュッと握るものだから、実は押し黙るしかない。

「男の子か女の子どっちだろうねぇ」

 願わくば保険医がなるべく保を傷付けなけないように諭してくれないだろうか。
 実は右の手のひらから伝わる体温の心地良さに瞼を一度閉じてから、ゆっくりと歩き出した。


「馬鹿じゃねぇの」

 目の前に座る保険医の倫也はなんとも冷たい眼差しで言い放った。

「えー、ばかじゃないもん」

 ぷう、と対抗しているのか保は頬を膨らませる。実は倫也の冷たい言い草に内心ヒヤヒヤしていたが、保があまり傷付いていないことにホッとする。そして、訴えるようにして倫也に視線を送った。
 普通、目力の強い実にじっと見つめられれば後退るものだが倫也は微動打にしない。それどころか逆に睨み返して声を低くした。

「馬鹿に塗る薬はねぇんだよ」

 しっしっ、とまるで犬を追い払うような仕草に実はため息を吐く。隣の保は意味が分かってないらしく、首を傾げていた。

「ミニリン何言ってんのぉ?」
「っ誰がミニリ」
「まぁまぁ、落ち着いて」

 そう言ってそこにいるのが当たり前のように英語教師である密樹が倫也を抑えた。



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