ぼーっと天井を見つめる。なるべく無心でいようと心掛けたけど、気付けば三郎のことばかり考えてしまっていた。
もしかしたら、俺と一緒の部屋が嫌で出て行っちゃうのかな。教室でも避けられたりして、もう二度と話すことも出来ないのだろうか。なんて、考えれば考えるほど自分の首を締めるのは分かってる。でも、考えずにはいられないのだ。
幸君に早く帰って来て欲しい。そう願ったときだった。
ガチャ、と扉が開く音がしたのだ。
「幸君……?」
俺はベッドから降りて、リビングへの扉を開く。半ば勢いのまま、リビングへ飛び出してから俺は後悔した。
寮は学年、役職に関わらず二人部屋だということを忘れていた。俺が三郎と同室であるように幸君にも同室者がいる。恐らくその同室者である人物、城木(しろき) ケヴィン先輩が、その端麗な顔を歪ませて俺を凝視していたのだ。
「――誰だ」
「あ。え、と……」
城木先輩の冷ややかな眼差しに言葉がつまる。
俺はそもそも幸君と知り合いではない。だから友人というのも違うし、セックスフレンドというのもどこか引っ掛かるものがある。
俺がうーうー唸っている間も、城木先輩はジトリと上から下に向かって俺を見る。そして、下を向いたまま固まった。
なんだ、と思って足元を見るとフローリングに精液の小さな水溜まりが出来ていた。
「うわ!」
急に動き出したものだから、中に出されてた精液が重力に従って落ちてきたのだろう。普通ならばその感覚に気付くけれど、今はそんな感覚さえ消えるほど焦っていたのだ。
でも、気付いてしまえば何とも言えない感覚に襲われる。しかもまだ、全て出ていってはおらずゆっくりと中を精液が降下するのを感じる。慌てて、お腹に力を入れても遅くてごぷ、と言う音を立てながら精液が太股を伝って落ちていく。
「や、!」
これ以上、床を汚さないよう手のひらで受け取ろうとするが気が動転しているのか、はたまた精液の量が多いのか、フローリングの上の水溜まりは大きくなってしまった。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
自分が何者か弁明する前に失態を犯してしまった。よくよく、見直してみれば俺は寝室を出る際に落ちていたシャツを羽織っているだけで裸同然の姿だ。さらに、城木先輩の目の前で尻から精液を出すという痴態を晒した。
ただの変態じゃないか。
「っえ、あの、そのっ……これは!」
「…………イチ?」
「え」
恐る恐るという感じで城木先輩が泣きそうな俺を指差した。
――イチ。それは小さい頃の俺のあだ名だ。本当の名前である―(はじめ)を音読みして、イチ。
幼稚園児だったときにつけられたそれを俺はとても気に入っていた。だって、俺が初めて好きになった人――
「も、しかして……ケン君?」
――そう、ケン君がつけてくれた名前だったから。
城木先輩もといケンくんはゆっくりと頷いた。
改めて、見れば小さい頃から変わりない栗色の髪の毛と緑の瞳はケン君そのもので俺は絶句する。勿論、イケメン大好きな俺は城木先輩としてケン君をチェック済みだったけれど今、改めてケン君だと分かって見ると何割も増して格好よく見える。惚れた欲目だろうか。
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