小説 | ナノ
 今にも感涙しそうなディアスに対してハヴェルは眉間に皺を寄せたが、嬉しそうに自分に話しかけてくるレトを見ればどうでも良くなった。
 ディアスの帰りに興奮してか、レトの頬は紅潮している。ディアスはそれを可愛い、と一纏めにしたがハヴェルからすれば可愛い、と妖艶、という言葉が頭に浮かんだ。思わず、頬に触れればレトはぴくりと反応して瞳を潤ませる。そのまま、手を小さな耳に運べばレトは肩を竦めた。
 出来ることなら、今すぐにでも抱いてドロドロに甘やかしてやりたい。けれど、ディアスのいる手前そんなことが出来るはずなく、むず痒い。
 ハヴェルがぎり、と奥歯を噛み締めると同時にディアスが叫んだ。

「お祝いだ!」

 は? と声を出す前にディアスはバタバタと部屋から出ていく。
 突然のことにハヴェルとレトは顔を見合わせる。勿論だが、2人ともディアスの思考を読めるはずもなく、どうすることも出来ない。
 そのまま立って待っとくのもなんだし、2人はソファに腰掛けることにした。そして、他愛ない会話をして時間を過ごす。一週間前なら、絶対に有り得なかっただろう状況だが今はこの時が楽しくて仕方ない。
 30分ぐらいだろうか。両手いっぱいに食料と飲み物を持ってきたディアスが帰ってきた。

「うわぁ……!」

 沢山の美味しそうな食べ物を前にレトは目を輝かせる。ディアスはそれらを2人が座っていたソファの前に置いた。

「俺の任務終了とハヴェルの自立、そしてレトがちゃんとお留守番出来た記念パーティーだ!」
「ぱーてぃー……!」

 腰に手をあててニッコリ笑うディアスにレトはくすぐったそうに笑う。今まで一度も体験したことのないパーティーが楽しみで仕方ないのだろう。
 ディアスが早速、レトにジュースを手渡せばただのジュースだというのにレトはそれが綺麗な宝石であるかのように見つめた。

「ほら、お前も」

 ディアスはハヴェルにビールを押しつけるように手渡す。そして自分もビールを手に持つと無理矢理に2人の間に割り込み、ソファの真ん中を陣取った。
 ハヴェルが非難の声を出すよりも前に、やけにハイテンションなディアスに遮られて無理矢理乾杯させられる。色々と不満はあったけれど、いつものようにぐちぐち文句を言われるよりは都合が良い。さらに、見よう見まねでたどたどしく乾杯するレトを見ればそんな気持ちは吹っ飛んだ。

「…………自立ってなんだ」

 ハヴェルが唯一残った疑問を口に出したが、それは誰にも聞き取られることは無かった。

* * *

 机の上だけでなく、床にまで喰い散らかしたゴミが散乱している。時刻はちょうど日を跨ごうとしており、随分長い時間"パーティー"をしていたな、とハヴェルは思った。
 いつもよりペースの早かったディアスは案の定、今、顔を真っ赤にして寝こけていて起きる気配はない。対してハヴェルは楽しそうにはしゃぐレトばかり見ていたものだから、あまり飲んでおらず意識もハッキリしている。

「……レト」
「は、い」

 ソファから立ち上がり、ハヴェルはうつらうつらと舟をこいていたレトを持ち上げた。すると、レトは寝ぼけながらギュッとハヴェルの首に腕を回す。
 ハヴェルはふっと笑みを零してから寝室へと足を進める。そして、優しくレトをベッドに横たわらせて離れようとするがレトが腕を外してくれない。

「……」

 仕方なく自分もレトの横に寝転ぶ。恐らく、これでレトが起きていれば襲っていたな、と考えつつハヴェルは目をつぶった。




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