小説 | ナノ
「丸本」

「ひ…っ」

「誰にあげるつもりだった」


見た事の無い先輩の様子に小さく悲鳴が漏れ自然に身体が縮まるが、頭をゆっくり横に振った。
同性同士の恋愛感情に嫌悪を持っている相手に、貴方が好きですなんて言ったって更に嫌われるだけだ。
もうこれ以上嫌われたくない。
でも他の誰かを適当に挙げるなんて事も出来ず、ただ口を閉ざすしかなかった。

途端にバシリと包みを床に叩きつけられて更に身体が竦む。
ぐしゃりと潰れた包装に薄らと涙が浮かんだ。

つかつかと先輩が歩み寄ると、顎を強く掴まれた。
殴られる、とぎゅっと目を瞑ると咥内に何かを押し込まれる。

――え?

とろりと舌の上で蕩けていく物はどうやらチョコの様で。
どこと無くコーヒーの様な苦味を感じるそれに首を傾げ――先輩の手の中のそのチョコの包み紙をみて目を見開いた。
それはさっき先輩に「食べたのか?」と聞かれた時に見せられた金色の包みで。
口の中の物が何かに気付いて慌てて吐き出そうとした…のに、


「んぅ!?」


先輩にキスをされて出来なかった。
それどころか舌が唇を割って入って来て、咥内を掻き回されて――…ゴクリと、僕は口の中の物を飲み込んでしまっていた。

茫然と先輩を見上げると、先輩は親指で唇を拭いながら


「男が好きなら、別に俺でも良いだろ」


と唇の端を歪めて笑った。


既に1個食べてしまっていた身体は、燻っていた熱を再燃させるのにそんな時間はいらなかった。
くたりと力が抜け、ろくな抵抗も出来ない内に制服を脱がされてしまう。
床に仰向けに転がされると、またあのチョコを唇に押し当てられた。
これ以上食べたらおかしくなると力無く拒めば、先輩はそれを口に含んで暫くして溶けたチョコを口移して来た。
喉を通る甘い甘いそれに酔う。
先輩の喉も時折動いて、それを飲んでしまった事が分かった。

さっきよりもずっと多い量を摂らされて、思考が輪を掛けてぼんやりとする。


「…はは、結構クるなこれ」


自嘲の様な笑いを零した先輩は、僕の太腿を掴むとぐいっと持ち上げた。
裸で赤ん坊がオムツを取り換える様な格好をさせられて、羞恥で顔が赤くなるのは分かるのに、身体も表情もぼんやりとしていて動かない。
ただ身体が重くて、熱くて、もどかしくて、切なくて堪らなかった。

する…とあらぬ所を触られて、流石に身体が跳ねる。


「ん…流石に濡れてないもんな…何か使える物…」


先輩は顔を上げて辺りを見回すと、ニヤリと笑みを浮かべて手を伸ばした。
暫くの沈黙の後、ぐっと後孔に何か押し当てられ、無理矢理ナカに入って来た。
まるで幼い頃、座薬を入れられた時みたいな不快感に息が乱れ、眉間に皺が微かに寄る。


「せ、…ぱ…」

「…大丈夫だよ、ただのチョコ」

「!?」


驚いて目を見開くが、自力で出せそうには無いし、体温でみるみる内にチョコが中で溶けて行くのが分かった。
とろ…と少しだけ漏れ出る感覚が気持ち悪い。


「これで少しは潤滑剤になるな」


その呟きの後に、ぐぬりと後孔を何かが割り入って来た。


「!?っぁ、あぅ…っ」

「指…まだ1本だけだから。痛い思いしたくなかったら、ゆっくり息吸って、吐いて」


そう言い放った言葉は冷たい響きなのに、先輩の手が優しく髪を梳いてくれて自然に力が抜ける。
口は笑みの形に歪んでいるのに、目がとても辛そうで。
どうしたのか聞きたいのに、ナカでぐりゅりと指が動いて言葉が続けられなかった。

抜き差しされ、時折曲げられる。
内壁を擦る様な仕草は異物感をさらに深めた。


「ひ、う…っん…ふっ…」

「もう2本入った。分かる?」


ぐちゃぐちゃと音を立てながら弄られて、生理的な涙が零れる。
ぽろ…っと眦を涙が伝うと、一瞬後孔を弄る指が止まった。が、直ぐに再開される。


「…んなに俺は嫌か」


ぼそりと吐き捨てられた低い言葉を聞き取れずに問う様な眼差しを向けるが、舌打ちと共に荒々しく後孔を解されるだけだった。
どうしてこんな事をされているのだろう、とぐるぐると考えているとナカに入っている指がある一点を擦り上げた。


「んぁあっ!!!??」


途端に身体に走った痺れる様な快楽に戸惑いの声を上げる。
ひく、と足が戦慄き、無意識に後孔を引き絞る。


「…ここか」


暗く沈んだ目で先輩が小さく笑う。
動けない体の上に覆い被さられると、耳元で囁かれた。


「ここ、前立腺って言って、感じるかは個人差あるらしいけど、感じる人は馬鹿みたいに感じるんだってさ。
丸本薬で敏感になってるし、今弄ったら凄い気持ち良いかもな」


それこそ、頭おかしくなったらどうする?と囁かれて震える。
それはおかしくなる事の恐怖からなのか、先輩におかしくされるという事の期待からなのかは分からなかった。





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