小説 | ナノ
泣きながらごめんなさい…と消え入りそうな声で呟いた丸本を宥めながら、どうするべきかと考える。
多分、丸本の身体は今、どうしようも出来ない熱が燻っていてとても辛いのだろう。それを吐き出せば良いのだろうが…。
ちらりと丸本を横目で窺う。
机の脚に背中を凭れさせてくたりとしている状態で、とても自分では処理が出来なさそうだ。

――じゃあ、

考えた案に思わず唾を飲み込む。

違う。これは決して邪な想いからじゃない。丸本が辛そうだから。丸本を助ける為に。
色々な言い訳が零コンマの速さで頭を過ぎり、満たしていく。
熱に浮かされた病人の様にふらふらと丸本に近づくと、後ろに回り抱き締めた。


「せ、んぱ…?」

「ごめん、後で殴っても…良いから」


そう呟いた声は震えていなかっただろうか。

緊張と欲を孕んで震える指先で彼のズボンのチャックを下す。
開いた間から指先を指し込み、下着の布を押し分けその中の熱に触れた。


「!?」


触れられた事で我に返ったのか丸本が腕の中でもがき始めるが、薬の影響かその力は本当に弱い。
ぎゅっと腕の力を強め、それを抑え込むと手早くチャックの隙間から熱を取り出した。
ふるりと薄暗い部屋の中で丸本の熱が震えるのが見えた。


「や、やだっ」

「丸本、落ち着いて。抜くだけだから…」


まだ幼い影が随分残っている好きな人の性器に動悸が激しくなる。
これが、丸本の…。
男のペニスなんて見たって何も面白くない筈なのに、どうしてこうも煽られるのか。
ごくりと唾を飲み込んで、そうっと優しく手で包みこんだ。

ペニスに手の平が触れた瞬間、一際大きく心臓が脈打った。
しっとりと微かに湿っていて、熱い。
完勃ちとまではいかなくても、薬の所為でかなり芯が通っていた。
ゆるゆると数回扱いてやれば、身体が欲していた刺激を素直に受け止めて直ぐに硬くなる。


「やぁ…っせ、ぱ…っや、ヤダ、汚いから…っんぁ!」

「大丈夫、全然汚くない」


丸本の耳朶に唇を触れさせ、扱く手を早めた。
震える声で繰り返し訴える「嫌だ」という言葉は、俺に触れられるのが嫌なのでは無く、汚いから触らないでという意味なのだろうか。
それならば――この行為に、行為をしている俺に嫌悪は無い?

もがき疲れたのか、嫌、嫌、と囁いているものの、身体は力無くこちらに委ねられていて、頭も肩に凭れかけている。
瞼もぐったりと閉じられていて、そこから染み出す様に流れる涙を片方の手で拭ってやった。
泣きすぎたのか腫れぼったい瞼が可哀そうで、そっと手で覆う。
見る力も無いだろうが一応。余り見ない方が羞恥も少なくて良いかもしれない。
そう思いながら柔らかい髪に唇を寄せ、性器に再び目を向けた。
その時に自分が無意識に舌なめずりをしているのにも気づかずに。

丸本のペニスは完全に勃っても、亀頭の張り出した部分に皮が少しだけ被っている。
殆ど仮性包茎と同じだろうが、剥けきっていないのも確か。
その敏感であろう部分に指をずらし、くにゅくにゅと皮の上から弄る。
癒着している感覚は無いから痛みも無いだろうが、繊細な所だ。
びくりと腕の中の身体が竦むのを優しく抱きしめる事で宥め、痛くない様に皮をゆっくり下にずらした。
カリが出て来た所で、そうっとその充血した真っ赤な部分を指で撫でる。


「ひぁあ!!!」


それだけで高い嬌声を上げ、先端から滲み出る先走りの量が増えた。
ぷくりと表面張力ぎりぎりまで膨れ、そして溢れだす。
それを指先で拭うと竿に塗りたくって更に扱いた。
にちゅにちゅと粘着質な音に合わせて丸本の身体は跳ね、息が上がる。
いや息が上がっているのは腕の中の身体だけでは無かった。

腹や腰が引き攣れたり、強張ったりするその様子に。
拒絶をしながらも快楽に端が蕩けている嬌声に。
腕の中の体温と重みに。
鼻孔から流れ込んで来る彼の匂いと、立ち上る精臭に。

全てに煽られ、興奮した犬の様に荒くなる息を整える事が出来ない。
鼻先を柔らかい髪に埋めながら胸一杯に息を吸い、まるで自分のモノを扱くかの様に一心不乱に手の中の性器を扱く。
実際、手を動かせば動かす程丸本は乱れ、その乱れ具合に精神的な快楽を得ていた。
このままだと襲いかねないと(いやもう十分既に襲っている様な物だが)思い、早くイかせる為に敏感な鈴口を少し強めに扱く。


「――――――っ!!!」


途端に、声にならない叫びと共にガクガクと腰を戦慄かせて丸本は達した。
びゅっびゅるっびゅっと断続的に尿道の中を精液が駆け抜けていくのが、性器を握っている手から伝わって来る。
パタ、パタタ、と白濁が床を叩き、指にもとろりと絡み付く。
その熱に胸を滾らせながらも最後の1滴を指先で拭った。


「…」


無言の中、陶然と指に絡み付く液体を眺める。
指を擦りあわして離せば、にちゅ…と微かな音を立てて糸が間に掛かる。
それを何も考えずに口元まで運んで――…


「せんぱ…」

「!」


静寂を破られ、びくりと身を竦めた。
今、自分がしようとしていた事に愕然とし、そしてそれを丸本に気取られていないかと慌てる。


「ごめんなさ…こんな…僕…」

「き、にするな。薬の所為だから。それよりも少しは楽になったか?」


こくりと素直に縦に振られる様子からはどうやら気付かれなかったようだ。
ほっと溜息を吐きながら汚れていない方の手で、汗を掻いた額に掛かっている前髪を掻き上げてやる。


「俺こそごめんな…忘れて良いから」


俺は絶対に忘れないが。と胸の中で付け足す。
忘れる訳が無かった。熱も匂いも何もかも。




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