小説 | ナノ
「ね、作ってくれるよね?」
「嫌です。なんで俺がわざわざ作らなきゃいけないんですか」
「だって、欲しいから」
「辰美さんなら沢山もらえるでしょう」
「高岳君からのが欲しいの」

 もう分かってないなぁ、と頬を膨らませてもなお辰美さんはイケメンだ。
 なんなんだ一体。まったくもって、思考回路が読めない。
 自然と眉間に皺が寄り、顔が険しいものになるが辰美さんはそれを気にすることなく、ちょーだい、ちょーだい、と小さな子どものようにごねてくる。
 うぜぇ。そう吐き捨てたいのをぐっと飲み込んで俺は辰美さんに尋ねた。

「どうして俺から欲しいんですか」

 その質問に辰美さんは目を見開いた。
 驚かれるとは思っていなくて、俺は首を傾げる。だって、わざわざ男からバレンタインにチョコが欲しいなんておかしい。いくら、俺の作るお菓子が気に入ったとはいえ、辰美さんのことだ。バレンタインには沢山の美味しくて凄いチョコを貰うのだろう。
 意味が分からなくて、首を傾げたままでいると辰美さんが急に笑い出した。

「ふはっ! ははは!」
「……別に面白いこととか言ってませんけど」
「いやいや、言ったよ。言った。ふふっ」

 なんだか、恥ずかしいし苛々する。
 まだ笑いが収まらない辰美さんから顔を背ければ、ちょうど佐原と目が合う。
 助け船を出してくれないか、とアイコンタクトを送れば何故か親指を立てられた。
 この兄妹。意味が分からない。

「もう、高岳君大好き!」
「やめて下さい、気持ち悪い」
「あー可愛い可愛い」

 そう言って辰美さんは俺の頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。
 逃げようともがいてみたが、上手くいかず俺はされるがままにいじられて、そこから逃げ出すにはかなりの時間がかかった。

* * *

「災難な目にあった……」

 すっかり暗くなった道を歩く。いつもなら、なんとも思わない道のりだけれど、今日は疲れがたまっているのか長く感じ取れた。
 結局あの後、なかなか解放されずに撫で回されて、さらにバレンタインの件も承諾させられたのだ。面倒臭くて嫌だけれど、作らなかったら何をされるか分からない。
 そう考えると自然とため息が出る。最近、ちょっとため息つきすぎだなぁ、なんて思っていたときだった。

「高岳?」

 よく通る、心地良い声が俺の名前を呼んだのだ。
 声の方、後ろを振り向けば予想通り佐橋がいた。

「佐橋……、部活帰り?」
「うん、今日はいつもより早く終わって。まさか高岳に会えるなんて……すごいビックリしてる」

 綺麗な笑顔を振りまきながら、早足で歩み寄ってくる佐橋は言葉とは裏腹に嬉しそうだ。
 けれど俺の横までくると、不思議そうに首を傾げる。

「高岳は、遅くまで何してたの?」
「……ちょっと用事があって」

 素っ気無い返事だったけれど、佐橋は深く探らずにそっか、とだけ返事をした。
 それから、なんだか気まずいというか空気が変わってしまって、会話が無いまま俺達は歩く。
 バレンタインまで、あと少ししか時間は無いというのに。自分でも女々しい、と思うけれど少しでも楽しい思い出を残したいのだ。けれど、何をしてたかを答えるわけにもいかないし、これ以上嘘はつきたくない。
 俺が悶々と考え込んでいると、急に佐橋が足を止めた。

「ねぇ、高岳……。高岳は佐原のことが、好きなの?」



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