小説 | ナノ
 バァン! と力任せに扉を開けば、青空とさらりとした風が吹き込んで、はっと目が覚める。弦矢は、あまりにも自分勝手な行動を省みて慌てて後ろを振り向いたが――。

「いきなりごめ、……洋ちゃん?」

 辛うじて手は握っているものの、洋司の顔は信じられないくらい青白く、足もガクガクと震えていて、弦矢は心臓を強く握り締められたような気がした。

「っ洋ちゃん!」

 慌てて、辛くないように背中を支えて座らせるが、洋司の喉からはヒュウヒュウとおかしな音が聞こえて、苦しいのかギュッと閉じられた瞼の端からは涙が溢れ出していた。
 急激な運動にうまく呼吸が出来なくなってしまったのだ。
 もともと、洋司の体が丈夫でないことは知っていた。よく、保健室にいるのだってそれがあるからで、倫也が洋司を構う理由だってそりゃあ、年の離れた可愛い従兄弟だからでもあるが、異常なまでの心配ぶりはそのことが一因だ。
 なのに自分は全部を理解していながら、いざその光景を目の当たりにすると卑しい独占欲が体中を支配して、自分のことしか考えていなかった。なんて子どもで馬鹿なんだろうか。弦矢は今すぐにでも、自分自身をボコボコに殴ってやりたくなったが今はそれどころでない。
 洋司を抱えて倫也のところまで連れていくには距離があり、過呼吸の対処に必要な袋なども持っていない。ならば。
 弦矢は、「ごめん」と一言断って洋司に口付けた。

「っふ、……は、……っ」

 そして一定の呼吸をして空気を送り込む。すると、洋司は空気を求める感覚を弦矢にあわせようにつられて呼吸を一定のものへとしていく。リラックスさせるために背中を擦ってやれば、さらに呼吸は落ち着いたものになる。
 時間にすればたった2、3分だったが弦矢には、とても長く感じられた。

「っん……、せん、ぱ……」
「!! 洋ちゃん!」

 必死の甲斐あってか、洋司はうっすらと瞳を開けた。まだまだ、顔色は悪いものの呼吸は元に戻ったようだ。
 けれども、まだまだ油断できず弦矢の表情は固い。洋司はそんな弦矢を安心させるために、にっこりと笑って手を伸ばして弦矢の目元を優しく撫でた。

「ごめっ、ご、めっ……! おっ、れ……」

 少し余裕を見せた洋司にホッとしたのか弦矢はボロボロと大粒の涙を零す。そして、必死に謝ろうと言葉を紡ぐが喉にひっかかってうまく喋れない。ひたすらに、情けない顔で嗚咽をもらす弦矢に洋司は思わず笑った。

「なんか、初めて、会ったときと一緒ですね」
「ひっ、ふ、そ、だね」

 涙でぐちゃぐちゃな顔をさらに間抜けにして笑うもんだから、格好いい顔が台無しになる。

「無理に、喋らなくても、良いですよ」
「ごめっ、でもっ」
「良いのに」

 さっさと泣きやもうとする弦矢に洋司は少しムッとした顔をする。もしかしてウザがられてるのでは、と弦矢が危惧していると、冷たい風が二人を撫でる。

「っ、中に」
「弦矢先輩」
「? ど、したの?」
「……もう、少し……、このまま……が、良い、です」

 そう言って洋司は、弦矢の胸元に頬を寄せる。その顔がほんのりと赤いのは、血色が良くなっただけではないだろう。
 それに気付いた弦矢は、カチカチに固まってから、恐る恐る洋司を抱き締めたのだった。




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