騎士団内での休日以外の外出には騎士団長であるディアスの許可がいるし、誓約書やらを書かなければならないため面倒だし日数もかかる。しかし誰かを招きいれるのは、その者の身分証さえあれば自由だった。
そのため今までは前もって休日に何人かと約束しておくだけで良かったのだが、とハヴェルは奥歯を噛み締めた。
「ちょっとは我慢って言葉を覚えろよ」
「無理だ」
「休日は何処に行っても良いから」
「無理だ」
「…じゃあ、週二」
「…無理だ」
「おまえっ……! 週三!!」
これ以上は無理だ、とばかりにディアスは腕を組んで鼻息を荒くする。
ハヴェルは脳内で軽くセックス出来るだろう回数の計算とディアスの珍しい強情っぷりから渋々と頷いた。
「お前、俺に恨みでもあるのか」
こんなことして、とハヴェルが不機嫌めに告げるとディアスは、これでもかと目を開いて ハヴェルを凝視した。
「はああああ!!? お前、あるに決まってんだろ!」
「何故だ」
「毎日アホみたいにセックスばかりしてるお前の後始末をする俺の気持ちになってみろ!」
「ゴムはしてるだろ」
「当たり前だ! 妊娠とかされたら終わりだからな!!」
ハヴェルは気遣いという言葉が欠如しているため、自分が満足すると相手はほったらかしであった。
その相手をなんとか安全に帰らせるのとハヴェルとのことを言い触らされないためにディアスは日々、四苦八苦していたのだった。
ハヴェルがゴムを毎回使用してくれたことが不幸中の幸いというかなんというか。
今だに分からない、という顔をしてるハヴェルを一睨みしてからディアスが気付いた。
「あれ? 少年は?」
「?」
連れてきて押し付けたはずの少年が目の前から消えていた。
ハヴェルも今気付いたようで部屋の中を見回す。すると、案外簡単に少年は見つかった。
「あ! いたいた」
「ひっ!」
部屋の片隅で少年は蹲っていた。頭を抱えるような体勢で震えてまだ泣いている。
ディアス達が近付くと少年はあからさまに怯えて小さな悲鳴をあげた。
「お前、何かしたのか」
「いや、してないはず」
「第一、どっから連れてきたんだ」
「スレイブショップ」
「買ったのか」
「うん」
スレイブショップとは名前の通り奴隷を扱う専門店である。金さえ払えば奴隷が手に入るため、使用人やら観賞用や性奴隷など様々な理由のために主に貴族が買っていく。ディアスとハヴェルも貴族出身なので偏見などはなく軽く受け入れるし、少年の怯えようにも慣れていた。
「大丈夫だよ、殺したりしない」
悪趣味な欲望を満たすために奴隷を買う人間が稀にいる。その噂を聞いているためか、大抵の奴隷は最初引き取られると少年のように怯えるのだ。
ディアスは安心させるために少年の頭を撫でる。出来るだけ優しく。すると少年はおずおずと顔をあげてディアスの顔色を伺いながら言った。
「ほ、ほんとですか…?」
「うん」
だから大丈夫、そう続けると少しは落ち着いたのか少年はこぼれる涙をぐしぐしと拭った。
「君の名前は?」
「レ、レトです」
「俺はディアス、あっちがハヴェル。これからよろしく」
「よ、よろしくお願いします!」
勢いよくレトが立ち上がり頭を下げるとハヴェルは一瞥だけして、ディアスは笑ったのだった。
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