潮江文次郎(今年5歳になる可愛い女の子)の未来の旦那さんこと俺、食満留三郎は現在潮江家のキッチンに立っていた。
隣には俺の未来のお嫁さんこと文次郎が可愛らしいピンクのエプロンを身に付けてこれまた愛らしい瞳を輝かせながらこちらを見つめている。
 ちなみにポケットにウサギさんのワッペンをあしらったこのエプロンは俺の手縫いであり、更に言うなら俺が身に付けている水色のアヒルさんエプロンとは色柄違いのお揃いだったりする。
俺はこのエプロンを作るために1週間ほどを費やしたが、エプロン姿の文次郎は天使と見紛うほどに可愛いので悔いはなかった。
 さて、俺と文次郎が何故こうして仲良くキッチンに立っているのかということだが、その理由は約1日前――つまり昨日に遡る。
 その日不覚にも不運な友人に風邪を移された俺は、情けないことに身体がだるくて思うように動けず文次郎との約束を果たすことができなかった。
夕飯にハンバーグを作る、という約束を。
 だが文次郎はそんな俺に怒ることもなく、とうとう力尽きてダウンした俺を一生懸命に看病してくれ、しかも夜になって(愛の力で)回復した俺を見て安心したような笑顔で“元気になってよかった”と言ってくれたのだ。
次の瞬間、彼女の言葉に感激した俺が文次郎を抱きしめたのは言うまでもない。
そのあと文次郎に土下座する勢いで謝った俺は、彼女と二人で手を繋いでコンビニに夕飯を買いに行った。
明日は“絶対ハンバーグ作るからな”と、約束をして。
 そして翌日の夕方、俺が約束を果たすためにキッチンへ向かった時、文次郎が自分も手伝いがしたいと言い出したのだ。
俺のシャツの裾を引いてそのつぶらな瞳で俺を見上げながら小さく首を傾げつつ“ダメか?”と問う姿はなんとも可愛らしい。
当然そんな愛らしい彼女の申し出を断るなんてことができるはずもなく、現在俺と文次郎はまな板やフライパンなどの調理器具が揃うキッチンの中で仲良く夕飯の支度に取り掛かろうとしているところである。

「よし、文次郎。そろそろ始めるぞ。」
「おう」
「まずはこれでニンジンの皮剥いてくれ」

 俺の言葉に元気良く返事をした文次郎につけあわせ用のニンジンと子ども向けの比較的安全なピーラーを渡すと、素直に頷いて真剣な表情で皮を剥き始めた。
俺はその間に玉ねぎを刻んでバターで炒め、牛乳に浸したパン粉や卵、塩コショウと一緒に挽き肉に混ぜてハンバーグのタネを作る。
途中、手を動かしながらも文次郎の観察…もとい彼女が怪我をしないよう目を配るのは忘れなかった。

「とめさぶろう、できたぞ」
「おぉ、ありがとう。怪我はないか?」
「だいじょうぶだ」
「そうか。じゃあ、ちょっと待ってろ。これ切ったらハンバーグ作るからな」

 ちょうどタネが完成したところで、文次郎が少し得意げな表情で皮の剥き終わったニンジンを差し出してきた。
俺はそれを受け取って一口サイズに切りながら笑顔で彼女に礼を言う。
残念なことに手が塞がっているため頭を撫でてやることはできなかったが、文次郎はそれでも嬉しそうに笑って握っていたピーラーから手を離した。

「いいか、真ん中はへこませるんだぞ?」
「こうか?」
「そうそう、上手いな」

 切り終わったニンジンとあらかじめ切っておいたつけあわせ用の野菜を茹でている間にハンバーグ作りに取り掛かった俺は、現在幸せの絶頂に居た。
彼女のためにウサギさんハンバーグを作る俺の隣では、文次郎が俺のためにとアヒルさんハンバーグを作ってくれている。
俺が時々投げる助言に従って一生懸命にタネと格闘する様は、思わず抱きしめたくなるほど可愛らしい。
残念ながら手が汚れているせいで抱きしめることはできないが。
 まぁ、実のところアヒルさんといってもデフォルメされたものなのでシルエットはただのまん丸なハンバーグなのだが、そこは俺の手腕でどうとでもなるので全く問題はない。
文次郎が俺のために作ってくれるのだから、必ずや完璧なアヒルさんハンバーグにしてみせる。

 そんな決意を胸にウサギさんハンバーグの耳を作っていると、隣から控えめに俺を呼ぶ声が聞こえてきたのでそちらに目を向ける。
視線の先では声の主である文次郎が少し照れたようにはにかんでこちらを見ていた。

「どうした?文次郎」
「………」
「できたのか?」
「……おう」

 薄く頬を染めて俺を見上げたまま何も言わない文次郎にもしやと思って尋ねてみると、案の定軽くうつむいたままコクリと小さく頷く。
そのまま視線をまな板の方へとずらせば、そこには少し歪んでいるもののなかなかきれいな円形のハンバーグが鎮座していた。

「おー、アヒルさんだ。綺麗にできたな!」
「ほんとか?」
「あぁ、すごいぞ!文次郎」


 ハンバーグへ向けていた視線を文次郎に戻して笑顔で誉めてやると、彼女は酷く嬉しそうに顔を綻ばせて自分が作ったハンバーグへと目を遣る。
その出来に自分でも満足しているらしく、自らの作品を見つめる瞳には自信の色が宿っていた。

「よし、後は焼くだけだな。文次郎、ここはもういいからテーブル拭いてきてくれ」
「わかった」
「フキンはそこにあるから、手を洗ってから行けよ」
「おう」

 あれから少しして俺の作っていたウサギさんハンバーグ(俺の持てる技術と文次郎への愛が詰まったかなりの力作)も完成し、残る作業はフライパンで焼くことだけとなる。
これは流石に危ないので俺が行うのだが、側に居て油が跳ねるといけないので文次郎にはその間にダイニングのテーブルを拭いてくるよう頼むことにした。
俺の言葉を聞いた文次郎は素直に頷いて流しで手を洗い、近くに置いてあった布巾を水で濡らしてきちんと絞ってからダイニングの方へとかけていく。
俺はその後ろ姿を温かい瞳で見守りつつ、棚から大きめのフライパンを取り出した。


 コンロにかけて熱したフライパンにサラダ油を垂らし、先ほど作ったウサギさんハンバーグと文次郎のアヒルさんハンバーグを乗せて両面をじっくり焼く。
ある程度焼いたところで調理用の酒を入れて蓋をした。
このまましばらく蒸し焼きにする。
アルコールは熱で飛ぶので問題はないはずだ。
先ほど玉ねぎを炒めた小さい方のフライパンでソースを作れば、後は焼けるのを待つだけである。
 隣の部屋から微かに聞こえるバタバタという足音と木製の椅子が動くガタガタという音に思わず笑みを浮かべながら、俺はキッチンの壁に掛かったキッチンタイマーに目を遣った。
 ハンバーグが焼けるまで後数分。
 文次郎の笑顔が見られるまで、あと数分である。


end.


可愛い幼女文次郎をありがとうございました!留三郎もいい感じにけまちわるい!!!






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