『くそっ……人数だけは威勢がいいなあいつら……!』
頬を殴られたことは不覚だった。
だからこそ腹が立った。
『大丈夫ですか?これどうぞ』
突然声が近くで聞こえたかと思えば、すぐ真ん前に中学の制服を着ている女がハンカチを出して座り込んでいた。
『………』
『別に返さなくていいです』
茫然としていた俺にキリッと立ち去る女。
『あ』
しかし何を思ったか立ち止まりこちらを向く。
お互いの視線が交差する。
『歯医者行った方がいいですよ。その虫歯』
最後にニコッ笑い歩き出した女に俺は。
『は?』
虫歯?
『……ククッ』
とんだ勘違いだな。
俺はこの頬の腫れを虫歯と勘違いされたことに笑った。
それはもういままでこんなに笑ったことなどあったかというぐらい。
それからだ。あの女を見つけ出したのは。
キャスケットに命令をした。
「女の情報を探せ」と。
そして見事に下僕は見つけ出し名前もわかった。
「だからお前の名前を知ってたんだ」
「た、確かにそんな事があったような……」
まさかの勘違いを起こしローくんにハンカチを渡していたとは。
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