×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
 
04


ふわりふわり。
雲の上かと思えば違うようだった。
何もない真っ白な無機質な空間。
約束を交わせばお互いが笑い、楽しい時間は過ぎていき、優しい時間はまた明日。

「……なんだそれは」

「グランドラインの有名な言い伝えですよ」

今しがた、ペンギンが口にした言葉に怪訝な顔をするロー。

「グランドライン?」

「何処からかは不明で、ただの言い伝えです」

「それをなぜお前が知ってるんだ」

「この前寄った島の人間が口を揃えて口ずさんでたからです」

ペンギンが詳細を詳しく述べると続きを口にする。

「次の島の名前にも由来しています」

「次の島……、確か“フルッタ島”だったな」

「かなり大きな島で果実が豊富な土地として有名だとか」

「……ほォ」

ローは顎に手を当て考える様に目を細める。
普段彼女といるときとは全く違う表情をする船長に感心した。
やはり二億の男だな、と。
やることはやってくれるカリスマ性。
カミソリよりも遥かに切れる頭。
海賊であり医者でもあるその知識。
本当に申し分がない。
ペンギンはひっそりと尊敬の意を注いだ。

「とりあえず、今は様子見だな」

「わかりました」



***



「リーシャ〜?」

ドタリドタリとゆっくり歩く白熊。
リーシャを探している様子で、名前を呼んで仕切に顔をキョロキョロと動かしていた。

「おいベポ。まだリーシャは見つかんねェのかァ?」

ベポに話し掛けてきたシャチは首を傾げる。
もうとっくに今頃は起きている紅一点の女性を今日はまだ目にしていないのだ。
不思議に感じているのは誰も同じ。

「うん、まだ見つからない……もしかして、寝てるとか?」

「それはないだろ……リーシャに限って」

「そうかなぁ……?」

シャチとベポが談義していれば、コツコツと特有の音に二人は顔を向けた。

「どうした」

「キャプテン、それがね……」

「リーシャをまだ一度も見てないんですよ」

「なに?」

二人の言葉にローは眉を寄せた。

「昨日は普通に元気だったはずだが……」

「そりゃ船長を突き飛ばせるくらいですもんね」

「アイアイ」

ローはシャチとベポの会話を受け流した後、さっそくリーシャの部屋を訪れていた。
軽くノックをし、ガチャリと扉を開ければそこには天使の羽が見えそうな――眠り姫がいた。
すやすやと眠る彼女にゆっくりと起こさないように近づく。

「やっぱり寝てたか」

茶色がかった黄色い髪が寝息に合わせてゆらゆらと揺れる。
船員達にはローの瞳によく似ているらしい。
まだあどけなさが残る少女のようだ。リーシャの寝顔を見詰めながらフッと笑みを漏らす。

(不思議だな……)

穏やかな寝顔もそうだが、笑う顔も恥ずかしがる顔も全て見ていればローの心臓はざわついて静まることを知らない。
彼女がこの船に乗って何ヶ月経っただろう。
もう随分と昔からいるような錯覚を起こしてしまいそうなぐらい彼女は馴染んでしまっている。
リーシャ本人は無自覚なのだろうが。
そう考えるとローはクス、と笑う。
無自覚ではあるが、時折自分を煽る時がある。
それを本人に言えば慌てふためいて謝ってしまうから当分は言わないでおこう。

「……ん」

「起きたか?」

「トラ、ファルガー、さ、ん……?」

リーシャは目をうっすらと開けローを仰ぎ見る。
ほら、今も俺を煽ってるだろ。
なんて勘違いを起こしそうな程。

「なんだか、凄く眠た、いです……」

まだ覚醒していない頭で喋る彼女は舌っ足らずだ。
ローは「まだ寝ていろ」と優しく頬を撫でれば、リーシャは気持ちがよさそうに再び眠った。

「本当、お前には敵わねェな……」

手が出せない。
いや、出せるわけがない。
自分だけが満足するなんて、そんなことははなから考えてなどいないのだから。
ローはリーシャが夢の世界へと旅立っていくのを見届けると自分もその隣へと身体を沈めた。



***



「う、ん……ん?」

リーシャは目を開けると、シパシパと数回瞬きした。
太陽が真上にあるような気がする。
そう感じた瞬間、バッと起き上がり周りを慌てて見回した。

(トラファルガーさんがいない……?)

いつも横で寝ている人がいないことに気づくとハッとした。

「もしかして、ね、寝過ぎた……?」

珍しい。
自分がこんなにも深い眠りをしてしまうなんて。
リーシャは驚きながらもサッと靴を履いて自室の扉を開けた。


prev next
[ back ] bkm