03
それからローはかなりお酒を含んだのにも関わらず全く酔う気配などなかった。
「凄い……」
ローと飲み比べをしていたペンギンとベポを除く全員が酔い潰れていた。
もちろんリーシャはお酒に弱いから参加しなかったが、ローの豪酒に開いた口が塞がらなかった。
「やっぱりキャプテンさすが!」
「俺は見張りと交代してくる」
この宴会を傍観していたベポとペンギンはそれぞれ立ち上がり船に戻ると言って去って行ってしまった。
二人きりになったリーシャはどうしようかと考えているとお酒から口を離したローがこちらに歩み寄ってきた。
「?、どうしたんですか?」
どことなく焦点が合ってないような気がする。
嫌な予感を覚え私は立ち上がろうとした。
「待てよ」
「っ!!」
艶めいた声色がそばに寄せられた耳にダイレクトに伝わる。
リーシャはもしかしてローは酔っているのではないかと感じ脳が遅い危機的予知を発した。
「も、もしかして、酔っていますか?」
「そうかもな」
リーシャの問いにローは答えるのと同時に首筋に顔を寄せてきた。
「っ、トラファルガーさんっ!?」
「呼び方、教えたはずだぞ」
呼び方というのは名前を呼べという意味であり、それを言われる度に口を閉じてしまうのだから意地が悪い。
そんなことを考えていればローはペロッとリーシャの首筋を舐めた。
「ひゃっ!」
「エロい声……」
「や、やめてくださいっ」
「却下だ」
ローと距離を取ろうと体をよじるが、入れ墨の入った腕に束縛されているため叶わない。
(うぅ、どうしよう……)
心臓が破裂しそうだ。
大袈裟かもしれないが、それ程恥ずかしかった。
スッとローの顔が近づいてくる。
キスされると思い、逃げることができないとギュッと目をつむったリーシャはいずれ来るだろう感触に震えた。
「………え?」
いつまで経っても来ないローを不思議に思い目を開けたリーシャ。
「あ、ね、寝てる……?」
そこにはカクリと首を下に向け、座りながら目を閉じたロー。
「ふぅ、よかった……」
安堵した後はローをゆっくりと寝転がせ、花びらが舞う桜を見上げた。
「すごく、綺麗……」
桜など初めて見たが、儚くも美しいとはまさにこのこと。
とても海賊に誘拐されたとは思えないような感覚にふふふ、と笑った。
想像するような海賊とは全く違う海賊。
それはトラファルガー・ローという船長がいるからかもしれない。
「海兵、なんだけどな……」
ぽつりと消え入るように呟くと後ろから腕を掴まれ、声を発する前にリーシャは倒れ込んだ。
「!?」
「暖けェ」
無論、引っ張ったのはローだった。
ギュッと体を抱き込むように抱きしめられたリーシャは状況を把握すると顔が熱くなる。
「寝、てたん、じゃ!?」
動揺しているリーシャに彼はククッと笑う。
「今から寝る」
「えっ?」
そうローはリーシャに告げると再び目を閉じた。
がっちりとホールドされているので動けない。
リーシャはもう諦めようと恥ずかしく感じながらもどこか安心をするような、妙な気持ちだった。
(恥ずかしいのに、安心する)
どうしてかわからなくて、でもうとうとと眠気が襲ってきた頭はそれ以上考える事をやめた。
***
朝起きるとリーシャはベッドの中にいた。
そして、当たり前のようにローが隣で寝ていたから叫びながらついベッドから突き飛ばしてしまった。
「朝から元気だな」
「ななななんでベッドにににに!?」
昨日は確かに桜の木の下でローに抱きしめられながら寝たのに。
リーシャは思い出しカァッと顔を染める。
「その真っ赤な頬、食べたくなる」
「へっ!?」
布団で顔を隠していればいつの間にかローが目の前にいた。
距離を取ろうとするとトンと壁に当たる。
ツゥー、と冷や汗をかくリーシャに彼はニヤ、と不適な笑みを作っていた。
「喰っていいか?」
もちろん断る。
とふるふると首を振った。
しかし気づいた時には頬に口づけされ、リーシャはまた絶叫してローを突き飛ばしたのだった。
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