05
案の定、船員達はそれぞれの時を過ごしていた。
釣りをする者、ゲームをする者。
それはとっくに昼を過ぎたことを示していた。
「お、やっと起きてきたか」
「シャチさん……」
ニカリと笑うシャチに申し訳がないと目尻を下げる。
そんなリーシャの様子にシャチは「気にすんな」と頭をくしゃりと撫でてきた。
「あ、昼飯食うか?」
「でもコックさんに悪いです……」
「大丈夫だって、コックだってリーシャが腹減ってること聞いたら喜んで作るぜ?」
「そんな……」
苦笑いするリーシャを余所に、シャチは腕を掴んできて食堂の道を足した。
ギシギシと船内の木の廊下が音を立てる。
そのわりにはしっかりとした造りの内装だ。
「おいコックー」
「ん?なんだ?」
食堂のトレーが置いてある入口からシャチが声をかけると一人のガタイのいい男が現れた。
コック兼料理長のハンクだ。
気さくで男気溢れる、まさに味に生を尽くす料理人である。
茶色く短髪な髪色に白いコック帽がよく似合う。
ニカッと人のよい笑みがリーシャを安心させた。
「おうシャチか。可愛い女性を連れて船長にどやされるぞ?」
「おまっ、冗談でもそんなこと言うなよ!」
拗ねたようにハンクを見るシャチにリーシャはふっ、と口元が緩んだ。
ハンクはその笑みを見ると顎に手を当て、ニッと上げる。
「お嬢さんは笑っている方が可愛いねェ」
「か、可愛いなんて……!やめてくださいっ」
ハンクの言葉に顔を赤くするリーシャ。
二人の会話にシャチが呆れたように口を出す。
「お前こそ船長に殺されるぞ。リーシャ口説くなんて……」
「口説いてなんてねェよ。事実を言ったまでだ。なァ、船長?」
ハンクの最後の台詞にシャチとリーシャは慌てて後ろを向く。
「当たり前だ」
「船長!」
「トラファルガーさん、いつから……?」
食堂の入口に背を向けて立っているロー。
両目をつむり、口元は上機嫌に吊り上がっている。
リーシャが問い掛けるとロ彼は壁から背中を離しハンク達へ足を向けた。
ハンクはずっとローの存在に気付いていたのだろう。
「お前が生まれた時からに決まってんだろ」
「船長ー!」
「え?私、生まれた時はまだトラファルガーさんと会ってませんよ?」
ローの変態を匂わせる発言にシャチはやっちまったとばかりあわてふためく。
「あはは!さすがはお嬢さんだな。船長の言葉をよくわかってる」
ハンクは面白いものを見るかのようにリーシャを見た。
「ところで、昼飯を食べに来たんだろ?」
「あ、忘れるとこだった。そうなんだよ。リーシャに何か作ってやってくれよコック」
シャチは思い出したとばかりにハンクに言う。
それにハンクは承知したとキッチンへと入っていった。
「随分と寝ていたようだが、具合が悪いのか?」
不意にローがリーシャに問いてきた。
リーシャは頷いて謝る。
「別に謝る必要はない」
「そうだぜリーシャ。誰にでも寝過ごすことはある」
明るく励まそうとするシャチにリーシャは笑みを向けた。
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